表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

童話集〜どうわあつめ〜

◆◆狐火の提灯番外編◆◆ 化狐は思ふ

提灯(ちょうちん)、狐火の、提灯を一つください』

貴女(あなた)の名前は……?』


『では、貴女の名前は(アカリ)です。今、僕が名付けました__』




〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜


(まぶた)に差す暖かな日の光に気がつき目を開ける化狐__(アカリ)


「……夢、か」

そう、灯は眠り、夢を見ていた。

いつかの古き日に山の中で出会った、己を恐れない不可思議な男の事を。


雪音と会ったことで思い起こされたのかの。(せつ)の一族、名前に雪の字入れるかの家系とは縁がよく結ばれるものよ……。

__あの男の子(おのこ)も……そうだったのかの……?


そんな事を思いながら辺りを見渡す灯。

雪は溶けかかっており、時が流れたことを感じさせている。

木々の合間から差し込む日の光は灯の心を和ませた。


しかし。

昨日のことのような少女との出逢いも、……人間にとっては随分前の出来事になってしまっているのかの。

そう思うと、灯は少し寂しい表情を浮かべたのであった。


山の中、木の根元に座り込み幹にもたれかかるようにして寝ていた灯。

立ち上がる。


足元に置いていた番傘(ばんがさ)を持ち、さっと開いて差す。


「霧の小川に行ってみるかの……。顔も洗わねばならぬ」


ゆっくりと灯は歩き出す。



歩いている間、灯は人間(ニンゲン)と自分自身__(アヤカシ)の関わり方について考えていた。



確かに、我等(われら)を視ることの出来る心豊かな人間は減っておる。

神仏への信仰も同様に弱まっておるのだろ。


だからと言うて信ずることを()めれば時と共に我等の存在は忘れ去られてしまう。


しかし……雪音のように、あの__男の子(おのこ)のように我等を恐れずにただ純粋な気持ちで接する人間もおる。


この先はどうなるのであろ。

答えはおそらく出ないのう。

人間は我等の存在を__消し去ってしまうのかの……。


不意に立ち止まる灯。

「ええい、()めじゃやめ。疲れてしまうわ……。もう一眠(ひとねむ)りでもするかの」

気怠げな表情で、辺りを見渡す灯。

手頃な木を探し、見つける。


ざくざくざく。

まだ少しある残雪を踏みしめる音。


どのように人の世を思っても所詮妖は妖よ。

ならば、その世をゆっくり眺めていようではないか。


また、雪音に会うことはできるじゃろうか……。


そんな事を考えながら木の幹にもたれかかり、目を閉じた灯。

そのまま、ゆっくりと__ゆっくりと眠りへ落ちていくのであった。




〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜


『では、貴女の名前は(アカリ)です。今、僕が名付けました』

一人でいる妖は名など持たぬ。

だが、付けられたのであれば……その後はそう名乗ろうぞ。


しかし__。

『__何故、灯なのだ?』

『え? ……なぜならば』


『貴女は僕にこんな暖かい灯火(ともしび)をくれた。僕の消えかけた命の灯火を再び燃え上がらせてくれた』



『貴女は僕の大切な、暖かな(アカリ)となってくれたのです__』


読了、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 名前を付けられたら、意味が生じる、繋がりが生じる…というのは、言霊の力。やはりなにがしかの縁はあったのですね。 良き関係で、これからもありますように。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ