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抜型

 その日、ロキたちはクッキーの抜型やエプロンなどを買ってきた。

 自室を訪れていた大槻と薗田にお披露目しながら、明日、ネットで検索したレシピ通り、エンに手伝ってもらって、クッキーを作るつもりだと言った。


「ちゃんと女、するって宣言したし。

 とりあえず、お菓子とか作っちゃおっかなって思って。

 女イコールお菓子作りとか言ったら、薗田さんに怒られちゃうかな」


「ロキは俺らと会う前までほぼ自炊していたし、料理の基本は、まあできていると思う。

 菓子は、料理とはまた違った楽しさがあるしね、なんでも自作しようって言うのはいい事だ」


 買い足した食材等を片付けながら、エンも満足そうに言う。

 プリントアウトしたレシピを再確認しているロキに、少年姿の秋冬たちとレヴィがまとわりつく。


「ぼくも手伝う」


「ぼくも、できる事、ある?」


「み、みえない。ぬしさま、みえないー」


 レヴィを膝に乗せてレシピを見せながら、三人には、型抜きをしてもらおうかな、と、うれしそうに見回す。


「する! ぼくが一番ね? 星のやつ使う」


「それはヒトデだろう」


「えっ、星だよ、レヴィ、ヒトデじゃ変だよ」


「ヒトデと星の形は似ているね。

 レヴィにはヒトデに見えたんだし、ヒトデでも間違いじゃないよ。

 ヒトデクッキー、いっぱい作ろう」


 ロキはむうっとして泣きそうになる膝の上の幼女の頭を撫でながら、宥めるようにいう。


「じゃ、ぼくはこれ、おうちの形」


「ぼくはこれ。くるま」


「一個だけじゃなくて、かわりばんこにいろんなのを使ったらいいよ」


 そんな彼らのやり取りを、エンと清羅がクスリと笑いながらみていた。

 ロキの、日記の一ページ目。


『エンとクッキーの道具を買った。

 いろんな形があって、迷ってたくさん買った。

 チビたちがよろこんでくれてよかった。

 明日、使うの、楽しみ』


 悩んで、やっとそれだけ書いて、腕を組んで読み返した。


「日記って、意外と難しいな。ま、はじめはこんなものか」


 明日からの日記には、何が書き加えられるのだろう。

 もっと書きたい気もするけれど、どこまで本心をさらしていいのか、戸惑いが大きく、書くことをためらってしまう。

 自分の歴史が、文字になって残されていく。妙に恥ずかしくて、うれしい。

 小学校の宿題とはまた違う、不思議な感覚。

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