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97章 疑惑に戸惑う二人

「終わった……のか?」

「おそらく……末期の言葉が気になるけど」


 立ち尽くす俺にミーヌが当惑するげに声を掛けてくる。

 強大な敵のあまりにも呆気ない最期。

 だが現実はこんなものなのだろう。

 英雄叙述詩にある様な数百合を交える戦いなど実際にはない。

 あの骨肉を鎬合った最終決戦ですら実際の戦闘時間は5分に満たない。

 互いの隙を突く刹那の攻防。

 次の手を読み合い優越に立つべく掛け引く心理。

 俺の様な前衛職が血に塗れ技を磨くのも、

 ミーヌの様な後衛職が心を削り智を得るのも、

 究極的に論じれば答えは一緒。

 相手の命を確実に止める為。

 哀しい事だが、ただそれだけの研鑽。

 訪れるその一瞬の為に俺達は己を研ぎ澄ます。


(やれやれ……少し感傷的になってるな)


 何かをやり遂げた後の脱力感が俺達を襲う。

 俺はミーヌの手を優しく引くと抱き寄せる。

 抗う事無く応じ、胸板に頭を預けてくるミーヌ。

 本来なら心地良いといってもいい疲労。

 しかしヘルエヌが残した最後の言葉が疑惑となり俺達を惑わしていた。

 古えの誓い。

 世界の変容。

 奴は何を願い、何を想ったのか?

 ……まっ、深く考えても仕方ない。

 今は形骸し難い勝利の余韻に浸ってもいいだろう。


「アル! 無事ですか!?」

「アルティア殿!」

「加勢に来てやったぞ~」


 威勢のいい声と共に、俺達の背後にある屋上扉が開かれる。

 意気揚々と駆けつけたるはサクヤに仕える御三家たる三人。

 即ち神名恭介、大神楓、神楽明日香であった。

 俺達を送り出す為、いったいどれほどの激戦を潜り抜けてきたのか?

 三人ともまさに満身創痍。

 全身至る所に傷を負い、血を流し、汗に濡れている。

 しかし三人に共通するのは清々しい闘志。

 自らの行いが齎す結果を信じ、戦い抜いた者達だけが持つ鮮烈なる陽の意志。

 その気に当てられた訳じゃないだろうが、俺達はやっと笑って応じれた。

 俺達の笑顔を見て恭介達もほっと肩の力を抜く。


「召喚陣が崩壊し妖魔達が召還されたので急ぎ駆けつけたのですが……

 その様子ですと、斃したのですね」


 誰を、とは敢えて言わずに尋ねてくる恭介。

 悪人でも命を奪う行為は気が滅入るものだ。

 俺は恭介の配慮をありがたく思いながら答える。


「ああ、決着は着いた。

 奴は……自らの罪悪に相応しい最後を迎えたよ」

「アル……あまり気に病まずに。

 奴は多くの人々の幸せを踏み躙ってきました。

 因果応報とは云いませんが、積もり積もったツケを払ったのです」

「左様……外法なる者の末路は大概が利己的な破滅。

 反面教師とすべき鑑ではありますが、アルティア殿がその命を背負い込む必要はありますまい。

 何はともあれアルティア殿。

 ミーヌ殿も救い出した事ですし、本懐は遂げましたな」

「概要は聞いてるが、ヘルエヌは『世界の敵』だろ?

 そんなのまで憐れんでたらキリがない。

 あたしが言うのも何だけど、アンタは為すべき事をした。それだけだろ?」


 三者三様の慰めの言葉。

 俺は弱気になった自らを恥じる様に苦笑した。


「すまない、どうやら少し弱気になっていたようだな」

「アルらしくもない。

 いつもの強がりはどうしたんです?」

「まったく。拙者を虐げる鬼のごとき攻めはどこに」

「うあ~アンタってば見掛けによらず手が早いんだね。

 その女性だけじゃなく、楓まで落としたんだ?

 言っておくがあたしは攻略対象外のゲストキャラだからな」

「アル……これはいったいどういう事?(にっこり)」

「うおおおおおおおおおおおお!!

 俺は何にもしてねえ!

 完全無欠に無実で濡れ衣だ!」


 面白がりからかう恭介。

 身をよじり恥じらう楓。

 呆れながら手で遮断する明日香。

 慈母の様に微笑みながら詰め寄ってくるミーヌ。

 劇画調に憤慨する俺。

 見様によっては不幸でも、トータル的には喜劇的なその団欒の一時。

 けれどそれは突如として終わりを迎える。

 鳴動と共に輝きを燈し始めた電波塔によって。


「アレは!?」

「何? この奇怪な呪力!?」

「まさかコレは……!?」

「アル!?」

「奴の置き土産か!?」


 不気味に揺れ動く塔。

 やがて一際眩い閃光が放たれるや、電波塔から膨大なる不可視の何かが俺達を取り組もうと迫ってくる!

 は、早い!?

 防御術式が間に合わな、


「離脱する!!」


 誰かの鋭い舌鋒が飛び……

 次の瞬間、俺達はその場から瞬時に離脱・転移していた。



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