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90章 事態に当惑な勇者

「楓、術符の予備はあと幾つだ!?」

「20を下回りました!

 保ってあと十数回が限度です!」

「ミーヌ、魔力障壁はあと何分保てる!?」

「このままだと5分が限度。

 今の私に残された力では、それ以上は無理」

「恭介、打開策はあるか?」

「正直難しいですね……

 搦め手ならともかくこうも物量に訴える正攻法では……

 同じ物量で応じるしかないと思います」

「夜狩省の増員は呼べないか?」

「電波・念話妨害の結界が広範囲に張り巡らされてますね。

 現状では打破できません」

「くそっ……ヘルエヌの野郎も形振り構わなくなったな……」


 俺達はミーヌの張り巡らせた防御障壁内に留まりながら、障壁に押し返されながらも群れを為す、意志無き暴徒を見やるのだった。

 切っ掛けはホンの10分前。

 東北放送局に車を近付けた瞬間起こった。

 突如道行く通行人が、建物の住人が俺達目掛け襲い掛かってきたのである。

 その瞳に正気の色は無く、ただ動く者を無差別に襲撃する様にプログラムされたかのごとく。

 暴徒に襲われた者も同様に暴徒になるらしく、ネズミ算式でその数を膨大に増してゆく。

 まるで吸血鬼やゾンビの様に増殖し車を囲む人々。

 逃げ道を塞がれない様に外に出た瞬間、彼らは雲霞のごとく襲い掛かってきた。

 どうやら感染型の洗脳術式らしいが、ミーヌから奪い取った力を使った為かその効果が幅広い。

 身体機能増強に加え、強制的に気を抽出させられた攻撃を繰り出してくる。

 普通の人々なら身を拘束すればそれで終わりだ。

 しかしヘルエヌによる術式汚染を受け暴徒と化した人々はBランク妖魔に匹敵しようかという脅威度を持っている。

 無論、俺達なら苦も無く撃破する事は出来る。

 力を奪われたとはいえ、ミーヌは『ミーヌ』固有の魔術を扱えるし、俺や恭介、楓に至っては言わずもがなだ。

 だがここで枷となるのは暴徒は元々何の関係も無い無辜な人々だという事。

 術式さえ何とか出来れば元に戻るのだ。

 そうなると俺達も無惨に切り捨てる訳にもいかず、個別に対処する他ない。

 ブーストされ本気で襲い来る人々を無力化するのは、ただ戦うより心身を疲弊させる。

 ヘルエヌが意図したであろう消耗戦になってしまったのだ。

 これも奴の思惑通りという事が悔やまれる。

 それに俺達は外道なる奴の所業を改めて思い知った。

 通常これだけの人数を同時に操るには高度な並列思考が必要となる。

 そこで奴はどうしたか?

 使い捨てにしたのだ、自らの傀儡とでもいうべき信望者を。

 つまりホストとなる者の脳内がパンクするまで並列処理を行わせ、次の生贄となる者に強制変換し続行。

 こうすれば自らは常に一人分の負担を脳内で術式管理すればいい。

 恐ろしい程効率的で、寒気がする程非人権的な方法。

 障壁内からも時折耳と鼻から血を零し倒れ伏す者が何人か確認できた。

 まるで俺達の無力さを嘲笑うかのように。

 力はあるも有効な手立てが無い自分の無能さが悔やまれる。

 状況に歯噛みし、最悪特攻を仕掛けるか検討し始めた時――


「天知る地知る人ぞ知る!

 悪を斃せとあたしを呼ぶ!!」


 という声が上空からビルに響き渡った。

 顔を見合わせ、胡乱気に上を見上げる俺達。

 そこには何というか……ミニの巫女装束を着た少女が月夜をバックに不可解なポーズを決めていた。


「悪に染まりし哀れなる魂達よ!

 大いなる姫に成り代わり、このあたしが成敗する! とう!」


 言い様飛び降りる少女。

 落下しながら何らかの術を使おうとしたのが見えたが、


 ゴキッ!!


 と凄まじい音を立てて頭から地面に突っ込んだ。

 っていうか、間に合わないなら術を使ってから飛べばいいものを……

 あまりの事態と云えばあまりの事態に、俺達のみならず意志無き暴徒達までもが呆然とその様を見守ってしまう。

 少女は何事もなく立ち上がると、埃のついた巫女装束を手で払う。そして、


「えへっ★」


 と指を顔に揃え微笑む。

 かなり可愛らしい顔をしてるのでよく似合うのだが、首があらぬ方を向いてるのでかなりヤバい構図である。

 っていうかアレ、致命傷じゃないのか?

 その少女を見詰めながら溜息をつく恭介と楓。

 俺は思わず圧倒され呟いてしまう。


「何だ、アレ……新手の敵か?」

「ああアレは……明日香です」

「え?」

「前にお話しした神楽家の性格破綻者ですよ。

 いい歳して英雄願望がある、イタい娘です。

 直視しない様、鏡の反射等を用いて見て下さい。

 最悪羞恥心が決壊しますから」

「こら、恭介!

 せっかくあたしが助けに来てやったのに、何だその言い様は!」

「頼んでませんよ!

 病院の警護はどうしたんですか!」

「姉様に頼んできた!

 こんな面白そうな事態にあたしを呼ばないなんて、何てこと!」

「お前が来ると余計に事態が拗れる!

 っていうか、被害が倍増するので早く帰りなさい!」

「ウルサイわ、楓!

 そこに悪がいて、弱き人々がいる限りあたしは諦めない!!」 


 二人の説得にまったく耳を貸さない。

 あかん。

 駄目だ……アレは意思の疎通が取れない生き物っぽい。


「あたしの名は神楽明日香!

 断罪の刃を振るいし者。

 愛を無くした哀しき者達よ!

 姫の恩寵をこの手に、

 貴方達のハート、ぶち壊してみせる!!」


 満足げな笑みを讃えながら再度決めポーズ。

 意味もなく光る瞳と口元が原理不明である。

 再び顔を見合わせ当惑する俺とミーヌ。

 マジで意味が分からん。

 御三家と言われる最後の一人、神楽明日香。

 彼女との出会い、っていうか遭遇は、こんな感じで始まったのだった。




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