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88章 夜空に打上る勇者


「楓……何で!?」

「術式兵装に限らず<技>や<術>には何らかの対価が伴います。

 まして今回、楓は幻朧姫様の御力を加工しました。

 事象干渉は人の手の及ばぬ神々の領域である御業。

 楓には……負担が大き過ぎたのです」


 痛ましげに解説する恭介の言葉も聞かず、楓に駆け寄り跪く。

 全てをやり遂げたかのように目を伏せたその美麗な顔。

 誇り高きサクヤの守護者は動かない。


「限界を超えた反動は大き過ぎました。

 楓は、もう……」

「馬鹿だよ、楓…………」


 戦慄わななく手を伸ばし、楓の頭を持ち上げる。

 まだ体温が残ってるのか、ホンノリとあたたかい。

 汗で額にへばり付く前髪を掻き分け、戦闘でついた汚れを取ってやる。

 いつの間にか俺の傍にミーヌが来て、その様子を神妙に窺っている。

 楓との面識はないも、事の経緯を察したらしい。

 謝罪するかの様に頭を垂れていた。


「俺達の為に命を投げ打つ何て……

 何で、そんな……」

「え?」

「ん?」

「アル……自分はいつ、

 楓が死んだ、なんて言いました?」

「え? だって、この状態」

「アル……大神一族は力を使い過ぎると、一時的な仮死状態になります。

 今の楓がそうですね」

「じゃ、じゃあ!

 楓は生きてるのか!?」

「生きてるも何も、最初から死んでません。無事ですよ」


 恭介の言葉に俺とミーヌは互いに目を合わせ喜び合う。

 ミーヌが事象停止状態から復活出来たのは嬉しいが、犠牲が伴うのはやはり釈然としないからだ。


「ただ、大神一族は仮死から蘇ると少々面倒な状態になりまして」

「面倒な状態?」

「ええ。行動が本能的になるというか、何というか……」


 言い淀む恭介。

 その声に反応した訳じゃないだろうが、楓が目を覚ます。

 周囲を窺うかのような楓の瞳。

 連動するようにピコピコ動く獣耳。

 まだ事態の推移が把握できてないようだ。

 俺は楓の頭を優しく抱えながら声を掛ける。


「楓! 楓!!

 大丈夫か!?」

「アルティア……殿」

「無茶をさせたな……すまない。

 お蔭様でミーヌを救い出す事が出来たぞ」

「アルティア殿……」

「まさかそんなに負担を強いるとは思わなかったんだ。

 今度は事前に」

「アルティア殿!!」


 俺の言葉は突如抱きついてきた楓によって塞がれた。

 満面の笑顔で顔を摺り寄せ、その身体を押し付けてくる。

 っていうか、言いながら衣服が脱げ始めてる!


「な、なんだ!?

 お、おい楓! いったいどうし」

「アルティア殿!

 アルティア殿!!

 アルティアどの~~~!!」

「ああ、やはりこうなりましたか」


 溜息をつき俺達を見下ろす恭介。

 どこか納得が云った様に頷いている。


「きょ、恭介!

 せ、説明をしろ!」

「大神一族は仮死から蘇ると行動が本能的になります」

「つ、つまり!?」

「生存本能が駆り立てるのか、種の存続がそうさせるのか……

 恥じらいがなくなります。致命的に」

「な!?」

「特に好意を持つ相手には露骨になります。

 子作りを強制的に仕掛けてくるので、うまく回避してください」

「んな!?」

「ああ、一回でも過ちを犯すと取り返しがつかなくなりますよ。

 彼女達大神一族はそういうとこは厳格ですから。

 ちゃんと責任を取ってもらうまで押し掛けますからご注意を。

 先程の言葉の続きですが、今の楓はもう……

 本能の忠実な奴隷です」

「な、なんじゃそりゃあああ!!!!」


 発情期の猫の様に艶やかな声を上げ胸元に擦り寄る楓。

 益々衣服が脱げ始め、肌も顕わである。

 っていうか、その膨らみは何ですか?

 思わず吸い込まれそうになる目を必死に逸らせば、醒めた目線で俺達を見下ろす恭介の姿。

 ち、違う! これは俺のせいでは……

 弁明しようとする俺。

 だがふと、傍らから空恐ろしい程の魔力を感じる。

 俺は、そーっと視線を向ける。

 そこには聖女の様に穏やかな笑みを浮かべたミーヌがいた。

 まるで全てを悟り赦す慈愛の容貌。

 可憐な容姿もそれに拍車を掛けている。

 問題は、

 血管が浮き出る程堪えた怒気と、血が滲む程の堅く握り締められた拳がそれを台無しにしてるということだけ。


「ち、違うんだミーヌ! これは不可抗力で!」

「アルの……アルの浮気者おおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」


 歴代の浮気男が零してきたであろう定番の台詞を叫ぶ俺。

 だがミーヌから賜わったのは、前衛職の俺ですら見切りが付かぬ速度で振るわれる魔力付与が籠ったアッパーだった。

 夜の暗闇の中、綺麗に上空へ打ち上げられ無様に舞う俺。

 鮮やかなネオンが煌めく夜景を横目に見ながら、俺は「どうしてこうなった?」と自問するのだった。



 ……トホホ(涙)

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