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78章 攻防に語りし闘者

 半身に構えた恭介は震脚と共に肘を突き入れる。

 それに連携するように、苦無を逆手に携えた楓はサトリと名乗った者の背後に回り首元目掛け切り掛かった。

 先程まで喚き散らしていたサトリの動き。

 戦闘に長けた二人から見れば素人同然の体捌きであった。

 当然その攻勢が当たるモノと判断した二人だったが、


「我を舐め過ぎではないかね?」


 小馬鹿にした様に肩を竦めるや最小の動きで二人の攻勢を回避するだけでなく、まるで全ての動きが「観えてる」様に一人ずつ腕を強打され、そのベクトルをいなされてしまう。

 驚く恭介と楓だったが、二人とも百戦錬磨の猛者である。

 普段は仲違いもするが生死の係った戦いに置いてはそれも忘れ、アイコンタクトで互いの意志を確認。

 恭介が手数でサトリの手を塞ぐ間に楓は術式兵装で具象化した手裏剣を投擲、その頭部を狙う。

 まさに必中の投擲と云うべき速さと精確だったのだが。


「だから『観えて』おる」


 軽く首を振るっただけで躱すだけに留まらず、あろうことか飛来した手裏剣を空中で受け止め恭介目掛け放ち直す。


「くっ……!!」


 瞬時に避ける事を優先、その場にしゃがみ足払いを行いサトリが足を上げ体勢を崩した隙に大きく後方へ飛び退る。

 並び立つ恭介は楓を見やる。

 長年共に過ごした恭介から見ても今の投擲術は必中、そして必殺の威力を秘めていた。

 それをあんな簡単に捌き切るのは不自然を通り越し不可解である。

 更に体術は未熟と思われたサトリの動きも気になる。

 今も悠然と佇むサトリの姿は隙だらけ。

 どこに打っても当たりそうなくらいなのに何故か直前で回避されてしまう。

 幾ら読心術の使い手とはいえ恭介も楓もそこは戦闘の熟達者、無我の境地に近い精神状態まで己の意志を研ぎ澄ませる事によりメリットを潰している筈なのだが。

 ここに至って恭介は一つの可能性に思いつく。


「成程……未来視、ですか」

「何だと!?」

「ほほう……流石は夜狩省の鬼札、すぐに気付くか。

 そう、我は生来の読心術に加え未来視の力をヘルエヌ様より賜わった。

 常に数手先を読む我にとって汝らの動きは予定調和。

 全てが把握できる」


 悦に入った様に解説するサトリ。

 サトリの言葉に納得する二人。

 身体能力に関しては力以外見るものがないサトリだったが、未来視を持つなら話は別である。

 攻撃の初動から終わりまでが観えているならば、その中から最善の動きを選択すればいい。

 不意打ちに関してもサトリにとっては只のテレフォンアタックにしかならないのだから。


「さあどうした?

 もっと我を楽しませてみよ。

 まあ最もお前達ごときが敵う相手ではないがな」


 哄笑するサトリ。

 それに対して恭介と楓はどうしたか?

 嗤った。

 鬼気迫る危険なモノを忍ばせながら。


「楓」

「どうした、恭介」

「囮を頼めますか?」

「やるのか?」

「ええ、勘違いをしてる馬鹿に神名の御業を見せてやりますよ」

「分かった……拙者に合わせろよ!」

「了解!」


 言葉少なに意志疎通を行うや恭介は<息吹き>に入る。

 尋常ではない威力を秘める神名真流だったが、業の発動には莫大な気の消費と溜めが必要になる。

 よって普段は待ちに徹し、充分気が練れたところで大技を叩き込むのが定番だ。

 だが今は前衛を務めてくれる楓がいる。

 なればこそ恭介は全力で練気に力を注げるのだった。

 一方、囮役の楓はサトリに特攻。

 東北支部でも一、二を争うその迅さを以ってサトリに迫る。が、


「無駄だ!! 

 無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄あ!!」



 奇声を上げるサトリに全ていなされる。

 どころか、その剛腕と鋭い爪により楓の身体は徐々に切り刻まれていく。

 加速していく動きに血飛沫が霞みのように飛び散る。


「URYYYYYYYYYYYYYY!!

 どうしたどうした!?

 お前達の力はそんなものか!?」


 爪牙を閃かせ楓に詰め寄るサトリ。

 獣臭いその息に辟易しながらも楓は呟く。


「遅いぞ、恭介」

「すみません。お待たせしました」


 謝罪の声と共に、横合いから輝く闘気を纏った恭介が割って入った。

 その動きすら観えていたのか、愉悦に浸ったまま距離を取るサトリ。

 楓はそれを見届けると、後方に下がりその場に跪き治療行為に入る。

 全身に刻まれた傷は深くないも、その出血が問題だった。

 早めに対処しないと、どんどん体力を持って行かれる。


「ほう……次はお前が相手か」

「ええ」

「少しは我を楽しませてくれ。

 そのようなレベルでは身体も温まらぬわ」

「そうですか……ならば御見せしましょう、神名の真髄を」


 能面の様な無表情で告げるや恭介の姿が搔き消える。

 アルティアの使うアゾートにも似た身体能力の向上。

 人にありながら悪鬼羅刹をも屠る神名真流の技の一端がここにあった。

 しかしサトリもさる者。

 徐々にヒートアップする恭介の動きに余裕で付いてくる。

 だからこそ気付かなかった。

 連撃を繰り出す恭介の意図を。

 何故無駄撃ちに等しい攻勢を続けるのか、数手先しか読めないサトリでは分からなかったのだ。


「ほらほらほら!

 動きが鈍くなってきたぞ!

 そんなものでこの我を斃せ……ん?」


 サトリは驚愕した。

 何故なら軽快に動いていたその身体が、今は一歩も動けなくなっていたから。


「な、何を……??」

「ああ、やっと効いてきましたか」


 魔笑をたたえ告げる恭介。

 菩薩の様に慈愛に満ちた眼差しでサトリを見やる。


「貴様、これは一体……?」

「貴方は未来視をもって数手先を読むのでしょう?

 体術そのものは未熟でも身体能力と反応でそれを補っていた。

 だから誘導し、罠に掛けたのですよ。

 無数に繰り出す手数の中、貴方の経絡を突きながら闘気の糸を絡める。

 そう、まるで蜘蛛に捕らわれる獲物の様に」

「馬鹿な……微かに読み取れる貴様の思考からは、そんな気配は微塵も……」

「戦闘職でない貴方に解説してあげますと、心が読め未来……数手先が分かるからといって、それは戦いに置いてあまり大きなアドバンテージにはなりません。

 達人同士の戦いともなれば読み合う手数は数百手、構えや足の運びも含めれば数千から数万に及びます」

「馬鹿な……そんな先まで考慮して動ける筈が……」

「だからこそ自分達は鍛えるのですよ。

 激動に揺れ動く戦闘の中、最善と思える動きを瞬時に選ぶ為。

 ……いえ、違いますね。

 もう行動は決められてるのです。

 普段の鍛錬通りに身体が動くよう。

 思考するのでなく反射する。

 それこそが戦いに求められるものなのですから」 

「そんな……お前達はいったい……」

「夜狩省の下っ端ですよ。

 さあヘルエヌの事について喋って……」

「危ない、恭介!!」


 楓の警告に全力で距離を取る恭介。

 刹那の差であった。

 突如拘束を打ち破って動き出したサトリの剛腕が、死角から恭介を刺し貫こうとしていた。


「貴方……既にヘルエヌの術式に……」

「GAAAAAAAAAAAAAAA!!]


 狂乱の鬼となって暴れ回るサトリ。

 その瞳に先程までの理知的な光は無い。

 おそらく未来視の力を授けられると共に、洗脳術式を施してたのだろう。

 敗北した際には余計な事を喋らない様、時限爆弾付きで。

 だが強引に拘束を打ち破った代償は大きい。

 全身から流血し、関節は螺子繰れている。

 痛みすら感じないのかただ腕を振り回し獲物を求めるサトリ。

 放っておいてもやがては自壊するだろう。

 しかし恭介は少しだけ憐れみを感じた。

 戦闘者としてあってはならない感情だが、サトリを一刻も早く楽にしてやるべきかと思う。


(やれやれ……これもアルの影響ですかね……)


 内心苦笑し、構えを取る。

 暴れ回るサトリとの距離を瞬く間に詰め背後を取るや、全身を巡る闘気を爆縮、ただ一点に収束し振りぬく!


「退魔闘法『如来活殺』神名真流奥義<威挫薙イザナギ>」


 空間すら断絶する壮絶なる縦薙ぎ。

 サトリの身体を一刀で両断する。

 事切れる寸前、恭介はサトリの「……がとう」という感謝にも似た声を聞いた気がした。

 頭を振り、やり切れぬ思いを感じながら楓に近寄る恭介。


「大丈夫ですか?」

「ああ、この程度なら問題ない。

 しかしこやつといい門番共は面倒そうな奴等だった様だな」

「ええ、アルが機転を利かして先制を撃って出なかったら厄介な事態になっていたでしょうね」

「アルティア殿は……無事だろうか?」

「分かりません。ですが自分達も一刻も早く駆けつける事にしましょう。

 彼は……放っておけない人ですから」

「違いない」


 共に笑い合うと、恭介と楓はアルティアが空けた大穴を見やり上層を目指すのだった。


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