77章 約束に解せぬ勇者
盗賊系スキル<罠感知・解除><迷宮探査>等を複合・統一した<忍>スキルを持つ楓の手腕もあり、城塞第一層は問題なく踏破出来た。
今は上層へ続く回廊を駆け抜けているところである。
罠を巧みに回避し俺達を導く楓の事を信頼しない訳じゃないが、ミーヌの安否が気になる俺は聖剣を通しヴァリレウスに念話で尋ねた。
(ヴァリレウス)
(どうしたのじゃ、我が主よ)
(楓にミーヌを痕跡を追ってもらってるが……合ってるか?)
(ああ、あの娘子の嗅覚は大したものじゃよ。
確実に近付いておるな。
同じ真族という誼もあり、妾はミーヌの存在波動を感じ取る事が出来る。
じゃがそれは居場所でいえば「北の方」ぐらい。
状態であれば「健やか」であるぐらいしか判別できぬ。
ミーヌに関して云うなら、今は「上の方」に居るで「(命に関わる外傷等は無いも)無反応」といった感じか。
妾も何度かアプローチをしてるが結果は芳しくない。
おそらくヘルエヌとやらの洗脳術式の影響か、それに近い状態。
探査呪文・術の使い手がいなくばミーヌの居場所を付き止めるのは至難の業じゃったろうな。
あの娘を遣わしてくれた咲夜殿に感謝するがいい)
(それは勿論。
しかしそれにしても……神々たる剣皇姫ヴァリレウスともあろう存在が、同じ神のサクヤに対して随分腰が低いんだな)
(アルの疑問は最もなのじゃが……理由がある。
何故なら妾達が存在階位を上げ神位に昇格した「亜神」と呼ばれる存在に対し、咲夜殿達は「旧神」と呼ばれる存在。
神々に成ったモノと神々で在ったモノ。
その差は埋められないほど隔たれておる。
異世界の旧神とはいえ妾でも敬意を払うのは当然じゃ)
(……よく分からないんだが)
(まあアル達人間から見れば強大で偉そうな感じの妾達じゃが、こう見えても色々としがらみがあるのじゃよ)
(ふ~ん。面倒なんだな)
(察してたもれ。
それより……終点が見えてきた様じゃぞ)
(お、本当だ)
ヴァリレウスとの念話を断ち切り前方に意識を向ける。
上層に続く階段の前に白布を頭からすっぽり被った怪しい人物が俺達を待ち構えていた。
「ようこそ、ヘルエヌ様が築きし五楼城へ。
異界より来たれる光明の勇者、アルティア・ノルン。
夜狩省東北支部の鬼神、神名恭介。
遠野の幻朧姫咲夜に仕える番犬、大神楓。
我々は汝らの訪れを歓迎する」
陰鬱な声で歓迎の台詞を述べる白怪人。
こちらの身元はバレバレか。
なるべく隠密に行動したつもりだが……情報が漏洩でもしてたのだろうか?
「いや、それは違う。
我が名はサトリ。
我の力は汝らの思考を読むもの。
汝らの考えなど筒抜けよ……」
ヒヒヒ、としゃくり上げる様な気味の悪い笑い声をあげるサトリ。
成程。読心能力の持ち主とは……面倒な奴である。
こういった輩はこちらの行動を先読みしたり、巧みな言動を以って動揺を誘ってきたりと下種な行為に枚挙にいとまがない。
「これから汝らに我等が課するは五つの試練。
我を含む各階層の門番を斃し最上階を目指してみよ。
そこに汝らの望む者はいる。
道中には汝らの知恵と意志を試す罠も多数設置してある。
果たして汝らの内、幾人が辿りつけるか……
まあもっとも、我を斃す事が一番の試練だろうがな……って、貴様!
いったい何を考えている!」
ので、まともに相手をしないのが一番と判断した俺は、のうのうと語り出してるサトリを無視し光波反響を使用。
奴の指摘通り、城内は面倒な迷宮と化し各階には屈強そうな門番がいるのが判別できた。
こういった奴等や極悪な罠をまともに相手するのは今述べた通り愚策だろう。
だから俺は最終決戦時、魔城<コキュートス>に侵入した時と同じ手を使う事にした。
「ヴァリレウス! 力を借りるぞ!!」
(承知。またアレをやるのじゃな)
どこか呆れた感じのヴァリレウスを無視し、聖剣を構えた俺は柄に魔力を伝達。
宝珠より導かれた術式を編成し斬撃に入る。
「光よ!!」
意志力の限界まで伸ばされた光の刃に対し、神々の持つ事象改変の力を上乗せした斬撃。
意味消失の理が具象化された断罪の刃は、あらゆる防御を無効と化し、存在そのものを消し去る!
俺のただ一撃により、城の上層部が六割方消失。
各階層の門番も全て消し去る事に成功。
残るはミーヌの生体波動がある天守のみとなった。
しかもこれで罠がない安全な道も確保出来たし万事OK。
「じゃあ行ってくる」
「ふざけるなあああああああああああああああ!!
何だそれは!!
お前はお約束を何だと思ってる!!?」
飛行呪文を唱える俺にサトリが怒鳴りつけてくる。
何だろう。最終決戦時の際にも仲間に
「美学がない」
「お約束ブレイカー」
「ゴリ押し馬鹿」
等と罵られたのを思い出す。
一番安全で、一番効率のいい方法を施行したつもりのなのに……
俺は何か間違った事をしたのだろうか?
不条理に首を傾げつつも呪文を詠唱、上層に空いた大穴目掛け飛翔する。
「ま、待て!」
「おおっと貴方の相手は」
「拙者達でござるよ」
追い掛けてこようとしたサトリの前に、恭介と楓が立ちはだかり足止めをしてくれる。
俺は二人に感謝を告げつつミーヌの元を目指す。
一秒でも早くミーヌの無事を確認したい為に。