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74章 葛藤に急いる勇者

「次の広瀬を右折、そのまま晩翠沿いに走ってくれ」


 先程までの道化じみた雰囲気は消え、鋭い瞳と声色となった楓の指示で、黄昏に紅く染まる杜の都を恭介の運転する呪的特装車が走る。

 大気中に微かに漂うミーヌの臭気を視覚化し、追跡するという目論見は成功していた。

 助手席に座り的確なナビゲートをする楓の力もあり追跡は迅速に進んでいる。

 只一つの誤算は時間の経過誤差。

 サクヤのいる神域にお邪魔した俺だったが、場に満ちる神気の所為か外界とは微妙に時間の流れ方が違う事に気付かなかった。

 あの中での十数分は通常空間の1時間に値するという。

 俺の体感では1時間もいなかった様に感じたが、外界では5時間近く経過していたのだ。

 帰還を待っててくれた恭介には感謝するが……

 そういう情報はもっと早く教えてほしかった。

 既にミーヌが連れ去られて一日近く時間が経過してる以上、数時間の誤差・経過は捜索に関係ないかもしれない。

 だがそれでも、


 一秒でも早く駆けつけたい。

 アイツの顔が見たい。

 俺に微笑んでほしい。


 そう思ってしまうのは、どうしようもない俺のエゴなのだろうか。

 湧き上がる焦燥を強引に鎮め俺は閉眼する。

 今は恭介と楓を信じよう。

 異界の客人という得体の知れない俺を温かく迎え入れ、信じ、共に連いてきてくれたこの二人を。


「楓……本当にこちらでいいのですか?」

「大きなルートに入った。

 拙者の目に映る<彩>……臭気が織り成す色も明確だ。間違いない」

「ですがこのままですと……」


 どうやら事態が動き出したらしい。

 開眼した俺は二人に訊いてみる。


「どうしたんだ?」

「ああ、アル。

 楓の指示で郊外に車を走らせてるのですが、このままですと……」

「どうなる?」

「幻朧姫様の唯一加護の及ばぬ地、青葉の城跡になります」

「そこはヤバイとこなのか?」

「ええ。古えより怨嗟の満ちる戦場跡地。

 杜の都に於ける負の情念の集いし場所でもありますね。

 憤慨・忿怒・怨恨・激憤・憤懣・憤怒・忿懣・欝憤。

 人の為す業の終焉の嘆場」

「咲夜姫がこの地に封ぜられたのも、

 その浄化を願われてなのだ、アルティア殿。

 人口が増加するに従い圧力を増す瘴気に遅々として進まないがな」

「なるほどな……恭介達夜狩省の監視の目を免れる唯一の場所でもあるのか。

 巧い場所に連れ込んでくれたものだ」

「まったくです。

 しかし正気じゃありませんね。

 呪的防御力がまったくない一般人なら、その無邪気な無防備さが返って鉄壁の守りと化すので問題なく侵入出来ます。

 望むなら観光だって出来るでしょう。

 しかし少しでも普通から逸脱した者には奴等はすぐさま牙を剥く筈です」

「つまり先方さんはそれを意にしない程のお馬鹿さんか」

「あるいは苦にもしない強者、となりますな。

 拙者も血が奮い立ちます」


 物騒な笑みを浮かべ犬歯を剥き出しにする楓。

 奇矯な行動や言動に紛れ忘れがちだがこの娘は戦闘嗜バトルジャンキー好中毒の傾向があったな。


「何にせよもうすぐ結果は出ます。

 今は良い方に当る様祈りますよ」


 肩を竦めた恭介は運転に専念し始める。

 夜の帳が下り始め光のページェントに飾られた道を車は滑らかに走っていく。

 帰宅する人々に混み合い始めた道路。

 気だるげな憂鬱を交え、道行く人々を眺めながら俺は祈る。

 ミーヌの安全と、俺達の行く末に待つのが相対的な暗闇でない事を。



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