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73章 穏和に窘める勇者

 楓に頼み、大神一族に備わる固有能力を使用してもらいミーヌの足跡を辿る。

 人には感知できない大気に漂う微かに残された臭気。

 大神一族はそれを嗅覚から視覚情報に変換し、追跡・捜索する事が可能なのだという。

 これなら行方不明だったミーヌの居場所もすぐに判明する。

 その能力に喜び勇んだ俺は楓の手を取り感謝を述べながら上下に振る。


「ありがとう、楓!

 広範囲索敵呪文に匹敵する能力だな。

 しかも常時追跡効果まであるだなんて凄いじゃないか!」

「いえ、一度に一人だけという制約があります。

 マーキングした人物しか追えませんし……

 アルティア殿に称賛して頂く程では……(ごにょごにょ)」

「ちなみにそれって上空からでも視認できるのか?」

「え? ええ。

 精度は幾分か落ちますが可能だと思います」

「よ~し。なら!」

「え? え? きゃっ」


 俺は手早く楓の足元を持ち胸元に抱える。

 顔を赤らめながらも、


「こ、これは伝説のお姫様だっこ!!」


 等と拳を震わせ呟く楓。

 事態の成り行きにどこか呆然としてる恭介に爽やかな笑顔で告げる。


「じゃあ行ってくる。

 ミーヌ用に熱い風呂の準備をよろしく」

「え……? あ、アル??」


 若干デジャヴを感じなくもないがそこはそれ。

 俺は高速飛翔呪文の印を手早く組み天空高く羽ばたこうと


「少しは落ち着きなさい!!」


 した瞬間、恭介に頭を突っ込まれ地べたに楓諸共崩れ落ちた。


「いった~。いきなり何をするんだ、恭介!?」

「何をするんだじゃありません!

 貴方こそ何をするつもりだったんです!?」

「え? ……ミーヌの所へ行こうと」

「どうやって?」

「飛翔して」


 問い掛けに対し素直に答えた俺に、何故かこめかみを指で押さえ頭痛を堪える様な仕草で応じる恭介。

 俺は何か間違った事を言ったのか?


「はあ……普段忘れがちですが、アルが異界の客人という事を思いだしました。

 自分達の常識では測りかねないのですね」

「いや~そんなに言われると照れるな」

「褒めてません!

 ……いいですか、アル。

 一昨夜の様な視認し辛い夜間帯ならともかく、日中に気安く空を飛んだりしてはいけません(はぁ)」

「え? 何でだ?」

「貴方達幻想世界の住人と違い、この世界では一般人の移動手段は限られてるのですよ。

 徒歩・バイク・車・電車・船等や公共機関など。

 それ以外の転移・飛翔等は緊急時以外基本使用しないで頂きたいのです」

「そ、そうなのか? 

 実は昨夜も武藤家に駆けつける時に高速飛翔呪文を使ってきたんだが……」

「夜間という事もあり、目撃情報が少なかった為、一昨夜の事を含め公にはプラズマの異常現象という件で情報操作をしておいたんです。

 ですが流石に昼日中に街中を飛翔されたら庇いきれません。

 焦る気持ちは分かりますが、お願いです。少し自重して下さい」

「ああ、知らなかったとはいえすまない。

 また恭介に迷惑を掛けてしまった」

「アルにはそれ以上の恩を頂いてますよ。

 それに第一どうするんです?

 飛翔呪文の様な魔力度の激しい魔術を使ったらすぐに敵方に感知されてしまいますよ。

 焦燥からミーヌさんに害意が及んだらどうするんですか」

「うう……反論できない。面目ない」

「まったく驚くほど大きな視野を持つかと思えばうっかり屋なとこもある……アルは面白い人ですね」

「それ、最近よく言われる」

「フフ……でもまあそれが貴方の魅力なんでしょうね。

 自然と力添えしてあげたくなりますよ。

 さ、お説教はここまでにして早く車に乗り込みましょう」

「え? 車?」

「はい。夜狩省特製の呪的防御・魔力遮断・索敵隠蔽等の処置がされた車なら追跡でミーヌさんに近付いても感知され辛い筈です」

「恭介……いいのか?」

「ん? 自分は端から御一緒するつもりでしたよ。

 こんな事で多くの人命を救って頂いた借りを返せるとは思いませんが、アルの力になりたいと思う自分の気持ちは本当です」

「ホントに……恭介は良い奴だな。

 こっちの世界に来てから世話に成りっぱなしだ」

「自分にそうさせたいと思う魅力が貴方にはあるのですよ。

 それに、楓と二人だけにしておくと大変な事態になりそうですからね」


 俺に向けた穏やかな眼差しはどこへ行ったのか?

 未だ足元に転がったままの楓へ向ける目は氷の様に冷たい。

 恭介の視線を追う俺。そこには、


「はあ……アルティア殿に踏まれてしまってる……

 痛いのに気持ちがいい……

 拙者は嗜虐倒錯の疑いがあるのか……」


 と、俺に踏まれながら獣耳をピクピクさせ息を荒げる楓の姿があった。

 恍惚に顔を赤らめるその姿は誰から見てもかなり駄目な人である。


「恭介」

「何でしょう?」

「悪いが同伴頼む」

「了解しました」


 阿吽の呼吸。

 言葉少なに意思疎通し合う俺と恭介。

 足元にタコの様に纏わりつく楓を引き摺りながら、俺達は車庫へ急ぐのだった。




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