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69章 反論に消沈な勇者

「気難しい楓は無事籠絡されたし、

 おにーちゃんは女の敵って判明したことだし、

 まあ~これはこれで万事オッケーってやつかな~?」

「すまん。マジで訂正してほしいんだが」

「細かい男は嫌われるよ、おにーちゃん?」

「勝手にスケコマ扱いされてる身にもなってみろ!」

「えー……でも、ねえ?」

「アルよ……その状態では何を弁明しても説得力がないと思うのじゃが?」

「え゛?」


 二柱の神々に猛抗議しようと意気込む俺だったが、

 醒めた眼差しで俺を見やるヴァリレウスの指摘に後ろを振り向く。

 そこには頬をバラ色に染めた楓が俺のインバネスを両手にモジモジとしていた。


「そ、その拙者は未経験なので、最初は優しくリードして頂いた方が……

 あの、決して嫌という訳ではなく、拙者も女として覚悟はしてるというか……」


 あの~もしもし? 楓さん?

 何やら妄想逞しくクネクネし始める楓。

 何故かキリッっとしてた獣耳もへにょ~んとしてる。

 これは……誘惑系の幻覚魔術を喰らったのと症状が似てる。

 俺は深く溜息をつくと、楓の肩に手を置き正気に返る様声を掛けた。


「おい、楓!」

「ひうっ!

 あ、あの……アルティア殿……

 せ、性急過ぎます……まずはその優しく耳元から……」

「何をトリップしている!

 いい加減に目を覚ませ!」


 カウンターバットステータスの最高峰たる<気と魔力の収斂アゾート>を発動。

 ツッコミの意を籠めて楓の頭に手刀を軽く叩き込む。

 闘気が眩い閃光を放ち、楓は我に返ったように自分の両手を見つめる。


「はっ! 拙者はいったい何を……?」

「ジャスト一分……

 ユメは見れたかな~?」

「え? 何ですか、咲夜様?」

「かる~い冗談よ。

 まったく……そういうオトコのコに免疫の無いとことか、融通の利かない頑固さとかも直していかないとねー。

 特に妄想癖とか(ぼそっ)」

「え? あの??」

「まあこんな感じで一癖ある娘だけど、実力の方は折り紙つきだよ~。

 特にこの娘の一族は鼻が利くから探索に役立つしね。

 多分増強したおにーちゃんの広範囲探索呪文と同じくらいには」

「そんなに!?」

「ええ、拙者達大神一族は数キロ先の生物を探し出す事も可能です」

「それは心強いな。じゃあ……」


 俺は思案する。

 ヘルエヌの居場所を着き止められればそれが最善だ。

 しかし幾ら鼻が利くとはいえ、俺は会った事もないヘルエヌの匂いを知らない。

 ならば次善の案でいくか。


「俺に一番纏っている女性の香りを追ってくれるか?

 それが俺の探してる人の場所だ」


 半裸になりながらも俺を救ってくれたミーヌ。

 ヴァリレウスが愚痴ってたのが本当ならまだ残り香がある筈。

 俺の提案に頷くと、楓は俺の首筋に顔を近付ける。

 クンクンっと目を瞑り鼻を鳴らす楓。

 妙齢の女性が密着するだけでも緊張するのに、

 それが間近でこんな事をされてると……


「コーフンしちゃう?」

「するか!」


 俺は全力でサクヤに返答しておく。

 その言葉に驚いた訳ではないだろうが、楓は満足したように離れた。


「アルティア殿に残っていた芳香、確かにマーキングしました」

「じゃあ?」

「ええ、これでいつでも居場所を追う事が可能です」

「助かる!

 楓、頼むが俺と一緒に……」

「皆まで言わずとも結構です。

 主上の命もありますが、友人としてアルティア殿の力になりたいと思います。

 構いませんか、咲夜様?」

「うん、それがあたしの望みでもあるし。

 よろしくね、おにーちゃん。

 かえでを上手く導いてあげてね?」

「ああ、任せろ」

「悪戯しちゃ駄目だよー?

 少しくらいなら……まあいいけど」

「するか! 少しも大目もないわ!

 っていうか、どんだけ信頼がないんだよ、俺は!?」

「あはは★ じょーだんだよ、やだな~♪

 ……たださ、おにーちゃん。

 真面目な話……もう、気付いてる?」

「何がだ?」

「おにーちゃんの、心の内に眠る闇について」

「……ああ、知ってる」

「その闇はさ、光の術法を使うおにーちゃんにとっていつか致命的になるかもしれないよ?

 特におにーちゃんは属性が偏り過ぎてたのもあるし。

 相反する属性は相克を生み出し術者に返る災いと為る。

 本来矛盾した存在なんだよ、ソレは。

 それでもその闇を打ち祓わないの?」

「……これはアイツが残してくれた大切な絆なんだよ。

 自分の命すら賭して俺を救ってくれた女性の、な。

 それに俺は決めたんだ。

 意をしない転生とはいえ、俺は勇者としてのレールから外れる事が出来た。

 ならば次は後悔をしない生き方をしようと。

 この闇の事もその中の一つに過ぎない」

「光でも闇でもない曖昧なバランスに揺れ動く中庸の天秤。

 白でもない黒でもない灰色に彩られた道を歩むの?

 神の眷属たるあたしが言うのもなんだけど、それは救いなき苦行の道だよ?」

「全て覚悟の上、さ。

 アイツを……ミーヌを受け入れる事にした時に」

「はあーこれは参ったな~

 久々に理屈で動かないお馬鹿さんを見ちゃった感じ」

「面白いじゃろ?」

「確かにおねーちゃんが肩入れするのも分かっちゃうなー

 おにーちゃんは面白い……

 っていうか、唯一無二ユニーク

「ひどい言われ様だな」

「何言ってるの。

 あたし達神々にとって、最高の褒め言葉でしょ?

 そうだ、おにーちゃん。

 いいものあげるからちょっと膝を落として目を閉じて」

「こうか?」


 サクヤの指示通り、しゃがんで目を閉ざす。

 すると俺の顔……っていうか、唇に近寄る気配。

 強大な神気からサクヤだと分かるが、その行為はどうみても!

 慌てた俺は目を開く。

 そこには小悪魔じみた笑みを浮かべたサクヤがニヤニヤ笑ってた。


「チューされると思った?

 残念でした~★」

「おまえなー(はぁ)

 ……そんな幼い容姿で何を言ってるんだか」

「む~何よ~(ぷん)

 こう見えても、あたしだって昔はねー!

 ……って、話がズレちゃうね。

 はいコレ。あげる」

「ん?」


 サクヤが自らの大きめの耳飾りを外し、差し出してくる。

 瑠璃色に輝く芳珠が飾られたソレはまさに珠玉の一品。

 空恐ろしい程の神気が渦巻き秘められている事から、神器に近いかなりのモノだと知れるが。


「いいのか? こんな名品を」

「うん。おにーちゃんに持って行ってほしい。

 守護者たるあたしは直接力を貸せないけど、ソレならいつかおにーちゃんの役に立つ筈だから」

「ありがとう、サクヤ」


 俺は自分の右耳にソレを着けると、少女の手を握り感謝の微笑みを浮かべる。

 サクヤは俺の言葉に顔を赤らめ背ける。


「そ、それあげたんじゃなく貸すことにする!

 だから……いつかちゃ~んとあたしの元に返しに来なさいよね!」

「ああ、約束する」


 俺は不貞腐れた様に彼方を見やるサクヤの頭を撫でる。

 眼を閉じ満更でもない顔をするサクヤ。


「ふふ……さてさて。

 色々突っ込みたいとこはあるが、我が主様よ。

 あのミーヌの事もある。

 そろそろ参るとするかのう」

「ああ……そうだな。

 こい、ヴァリレウス!」

「ん……」


 虹色の閃光と共に法衣姿の美麗なヴァリレウスは聖剣へと化身する。

 俺は聖剣を据えるとサクヤにもう一度頭を下げた。


「じゃあ行ってくる」

「気をつけてね。かえでをよろしく」

「了解。改めてよろしくな、楓」

「拙者こそ足手纏いにならぬ様頑張ります」

「いやいや謙遜するなよ。楓の実力なら充分背後を任せられる」

「謙遜だなんてそんな……

 背後を任せるとか、それは契りにも似た……」

「そういえばサクヤ、一つ訊きたいんだが?」


 またもトリップし始める楓を意図的に無視し、俺はサクヤに尋ねた。


「なーに~?」

「何でコスプレをしてるんだ?

 しかも電脳歌姫の」

「ん~誣いて言うなら……

 趣味、かな」

「趣味なのかよ!」

「ほら、あたしってば守護者でしょ?

 最近隆盛激しい電脳世界にも守護者がそろそろ必要って八百万が集う神有月会議で話したの。

 そうしたら言いだしっぺからやれ、ってお鉢が回ってきちゃった。

 ちょうどこんな体型だったしねー。

 最初は渋々だったけど……今は楽しい、かな?

 人の熱意が集う電脳世界は偽りかもしれないけど、第二の楽園だよ~」

「左様ですか」


 俺は熱く二次元について語るサクヤに愛想良く頷きながら、早くミーヌを探しに行きたい気持ちを必死に抑えるのだった。


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