66章 暴挙に堪えし勇者
「はい、これでお仕舞い~っと」
上機嫌なサクヤの声と共に、ゴキッ! と殊更不気味な音がして振り上げられた素足が深く俺の背にめり込む。
その瞬間、パキンと何かが砕けた様な衝撃が奔った。
するとどうだろうか?
日々重さを増し、纏わりつくようだった枷の様な抵抗が消えているのを実感。
更に全快を遂げていた筈の身体が枠を超えて超回復、能力が向上していく。
異界存在による不均衡な力の是正を課すという世界結界<阿頼耶>の修正が良いように作用したのだろうか?
俺は数ヶ月分の修行に値する力量上昇に身体が震える。
「なーに、おにーちゃん。
あたしに踏まれて感じてるの?
へんた~い」
「んなわけあるかぃ!」
勘違いして、うあ~な声を掛けてきたサクヤに俺は全力で立ち上がり憤慨する。
「まあ冗談だけどね★
それで……どお?
これで大分違うと思うけど」
「ああ……確かにば。
この世界に来る以前の状態に戻ったどころか、更にレベルアップをした感じだ。
ありがとうございます、幻朧姫様」
「ううん。おねーちゃんにも言ったけど、これぐらいお安い御用だよー。
杜の都の守護者としての責務でもあるし」
にぱっ、と純真で明るい笑顔で応じるサクヤ。
遥か年上だというのその幼く見える外見も相まって反則的な可愛さである。
でも訊かなくてはならない事があるので尋ねてみる。
「それで幻朧姫様」
「サクヤって呼び捨てでいいよー。あと敬語禁止」
「じゃあサクヤ」
「なーに、おにーちゃん?」
「一つ訊きたいのだが」
「うん」
「これって……
俺の背を踏む意味あったのか?」
「ないよ」
思わず扱ける。
隣りにいたヴァリレウスも苦笑している。
「ないのかい!」
「うん。認可の聖印を刻むのなんて手でも出来るし……
何で背を足で踏むかっていたら……
趣味、かな~」
可愛く頬に人差し指を当てて媚びるサクヤ、
俺は全力でツッコミを入れる。
「趣味なのかよ!
じゃあ……あの屈辱に耐えた時間も必要でなく」
「うん、無駄。
書く気になれば数秒で書けるし」
「マジですか……」
俺は思わずその場にしゃがみ込んでしまう。
ミーヌの為、
ヘルエヌを探す為、
枷られた力を取り戻す為。
自己欺瞞をしながら自分を支え耐えていたが、それは無駄な労力だったらしい。
俺の落ち込みっぷりを見て憐れんだのか、サクヤが肩に手を掛けてくる。
少し胡乱げな目で見上げる俺。
そんな俺にサクヤはうんうん頷きながら、
「ごめんね、おにーちゃん。
……あたしってば、おにーちゃんの気持ちも知らないで……」
「サクヤ……」
「今度は、ちゃ~んと背中だけじゃなく前も踏んであげるね?
もう~このヘンタイさん★」
「そういう落ち込みじゃねえよ!!」
相変わらずのサクヤの暴君暴走っぷりに。
俺は泣くのを堪えつつツッコミの叫びを吠えるのだった。