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62章 内面に赤面な勇者

 明確な意識を以って眠りから目覚める。

 少しだけ見知った天井に向け俺は手を伸ばす。

 ゆっくり拳を握り、自らの状態をサーチ。

 身体は完全に回復し、HPMPは共に全快。

 澄み渡る気力と魔力が全身を駆け巡る。

 まるで発電所の様に唸りを上げる活力。

 俺は背筋を躍動させ跳ね起きるとベットから医務室の床にゆっくり舞い降りる。

 恭介だけでなく周囲に人の気配が無い事は起きる前から察知済み。

 ボロボロになった制服は脱がされ、代わりという訳ではないだろうが貫頭衣に似た病衣を着せられていた。

 俺は軽く柔軟をしながら病衣を脱ぎ捨て、枕元に用意してあった衣服を観る。

 素晴らしく丈夫であるだけじゃなく軽くて動きやすい。

 鑑定スキルを起動すると、それだけでなく各種耐魔結界が付与された名品であることが判明。

 おそらく恭介の所属する機関の備品なのだろう。

 傍らには騒動のあった武藤家から回収されたのか真銀の鎖帷子やインバネス等の各種装備。

 俺はそれらを着込み完全武装。

 異世界に転生してから徐々に弛んでいた神経が引き締まる感じ。

 戦いの場に戻ってきた、という独特の実感が俺を鋭く研ぎ澄ましていく。

 軽く呼吸を整えた俺は手を胸に当てる。


(覚えている)


 微睡みの中垣間見た、あいつが歩んできた歴史。

 滅びの後に訪れる虚無の安寧だけが救いだった哀しき過去を。

 どういう理屈でこんなものを見たのか分からない。

 おそらくはミーヌとの精神的な接触が互いにラインを形成したのだろう。

 魔術的な意味合いでもあるそのラインは、互いを知り存在自体が繋がるパスともなる。

 俺があいつの過去を知った様に、

 ミーヌもまた俺という存在を理解したのだ。

 それでも嫌悪せず俺を受け入れてくれた。

 受容されたという事実が安らぎとなり俺を癒してくれる。

 何故なら人の内心というものは綺麗なもんじゃない。

 勇者という神輿に担ぎ上げられた俺だって、人並みの欲は持っている。

 人より楽をしたい。

 美味い物を食べたい。

 好きな人に好かれたい。

 何より……快楽に溺れたい。

 これらは偽りなき俺の内心の一面だ。

 醜く、人に晒す事すら出来ない暗黒部。

 それは人が持つ負の一面であろう。

 それに俺は自覚してしまった。

 忌まわしい事だがヘルエヌの指摘は確かだ。

 俺の内にある欲望というか行動理念。

 運命に抗う力を欲する自分。

 誰かの剣でありたいという願う衝動を。


(だが……)


 俺は知った。

 大切な誰か(存在)がいる。

 それだけで……人は救われる。

 慈しみ、

 守り、

 愛する。

 誰しもが当たり前に持ちながら自覚し辛い想い。

 人の持つ一面は負の側面だけじゃない。

 面を為す内面には正しき事を理想とする心が内包されている。

 何故分かるかって?

 ミーヌの事を想うだけで、胸が満たされ自然と口元に浮かぶ笑み。

 これこそ俺にとって明確な証拠であり真実。

 しがらみから解放された今、俺は光明の勇者じゃない一個人として闘える。


(そう……アルティア・ノルンは、

 ミーヌ・フォン・アインツヴェールを……)


 赤面した顔を隠すように俺は颯爽とインバネスを翻す。

 自分の内なる想いなんて恥ずかしくて語れるか、まったく。



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