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61章 因果に立向う勇者

 夢を、見ていた。

 少女が……ミーヌが悩み、傷付き、挫折しながらも孤軍奮闘する夢。

 いや偽りを述べるのはやめよう。

 俺が見ているのは、紛れもないあいつの過去。

 苦悩する暗天蛇の歴史だった。

 魔族の女王に祭り上げられた少女。

 人族の年齢でいえば15にも満たない。

 並外れた魔力を持ち卓越した手腕を振るうとはいえ、その心は幼い。

 一族の未来を案じながらも、ゆっくりと歪み……壊れていった。

 真綿で絞められていく拷問の様な日々が及ぼす精神の罅。

 自分の存在すら駒と見做し運命の遊戯盤に立つミーヌ。

 心優しきあいつにとってそれはどれほどの苦痛だったのだろう?

 こちらの世界に来てからのあいつのはしゃぎ振りが思い返される。

 天真爛漫で明るく純粋なあいつの笑顔。

 おそらくそれこそが本来あいつが年相応に許される筈だった時間。

 だが種族的な存亡と転輪皇の啓示が全てを破綻させた。

 古に栄えし真族。

 世界を守護せし神族。

 世界に荒廃を齎す魔族。

 元は同一なそれらは、世界に関わる在り方から論争し二分化し対立していった。

 まるで合わせ鏡の様に類似しながらも反発し合う二者。

 やがて訪れる決定的な破滅。

 争い合う両者は戦争に突入した。

 少女の苦渋を置き去りにして。

 そうなれば少女に出来るのは命じられるまま力を振るうのみ。

 善悪の問題ではない。

 魔族という神輿に担ぎ上げられた少女にとってそれこそが存在意義なのだから。

 108にまで減少した神族。

 数こそ勝るも個々の力で大きく劣る魔族。

 戦争の終焉は十二皇琺神と呼ばれた存在達の捨て身の技法により唐突に迎えた。

 現界する力を喪失するまでに研ぎ澄まされた封印魔法が転輪皇を捉え、

 追従する形でミーヌを含む魔族達も封じられた。

 レムリソン大陸の遥か北。

 永久に融けぬ氷壁に閉ざされし、神々の黄昏ラグナロードの地に。

 元の身体を捨て去った精神生命体とはいえそれは魂の牢獄。

 眠りに似た深い微睡みの中で思うは己が判断の正否。

 欲深き人間により封印を解かれた際もそれは変わらなかった。

 人間だけではない。

 世界と共存出来るか否か?

 それは魔族を束ねる者にとってまさに火急ともいえる責務。

 世界を我が物にせんと逸る配下を理に依って説き伏せ、日々模索する。

 結果は無惨なものだった。

 何故ならミーヌ達と交渉すべき人族は……

 真族が神族と魔族に割れてまで守った琺輪世界を牛耳る者達は、交渉にも値しない様な蛮行を繰り返していた。

 失望と共にそれでも交渉を行うミーヌ。

 しかしそれは最悪の形で裏切られる。

 精神生命体故、現存生物に宿り顕在化する魔族。

 珍しいそれらを乱獲しようと画策する諸王国関係者。

 やむなく自衛する魔族達。

 歪な自尊心からか意固地になり浅はかにも軍を派遣するものの返り討ちに遭い、そして……大戦となった。

 この大戦の切っ掛けは人族の愚かさから始まったのだ。

 俺にはそれが衝撃的で……何より情けなくなった。

 それはミーヌも同じだった様で、過ちを繰り返さない為に苦しみながら融和の道を探していった。

 人族と魔族が手を取り合う……そんな可能性を信じたミーヌ。

 戦争と闘争による疲弊により戦う事の意義を疑問視する声が出れば和平に繋がると考えたのだが……

 結果は残酷だった。

 互いの存在を憎しみ合う人族と魔族。

 理由があり戦うのではない。

 存在することすら赦せない。

 つまりどちらかの絶滅を以ってしか終わりがないと気付かされた。

 失望は失意に変わり、希望は絶望に変容する。

 そうして夢見るのはいつか自らが討たれる約束の日。

 俺は以前遠回りな自殺だったのかと尋ね強く拒否されたがそれは的を射てた。

 あいつに残されたのは滅びの後に訪れる虚無の安寧だけだったのだ。

 恒久の平和などではない。

 時に憎しみ合い、されど互いを思いやる事ができる。

 仮初めなれど平和で豊かな時代を欲しただけの少女が望んだ舞台。

 配役に戸惑いながらも無様に踊り続けたミーヌを嗤う、悲劇故の喜劇。

 因果に操られし演出者は皮肉に歪んだ笑みを浮かべているのだろうか?





(……ふざけるな)


 運命を罵倒する声は自然と出た。


(ふざけるな!!

 こんな、こんな生き方があるか!!

 変えてやる!!

 因果や運命など知るか!!

 俺が、俺があいつを……ミーヌを幸せにしてみせる!!)


 何で咆哮したかは知らない。

 だが心の奥から突き動かされる衝動のまま俺は吠え続ける。

 覚醒に向け浮遊する意識。

 この事も、もしかしたら忘れてしまうかもしれない。

 されど俺は胸の中に灯ったこのミーヌを闇を失わずに取っておきたかった。

 いつまでも、あいつが幸せに笑うその日まで。



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