5章 朝日に誓いし勇者
障子から差し込む朝日が目に刺さる。
ぼんやりとした視界に映る見慣れない品々。
改めて自分が異世界にいる事を認識させられた。
起きようとして掛けられてた布団をめくると、テーブルを挟んで武藤翁が爆睡しているのが見えた。
昨夜というか、つい数時間前まで恭介を交え飲み明かしてたのだ。
さすがに酒豪を自負する武藤翁といえど堪えたのだろう。
まあ仲間から、
「底なしか、お前は」
「虎っていうか蟒蛇?」
「酒は水じゃねーんだよ。いい加減にしろ!」
とか野次られた俺の酒量には付いてこられなかったらしい。
俺は粗暴でも気の良かった仲間達の顔を思い出し、しばし黙祷する。
(エゼレオ、フィーナ、カイル。
その他女王討伐に同行してくれた皆……。
何の因果か俺だけが生き残っちまったよ。
しかも異世界にいるしな。
取り敢えず暗天蛇の行方を探そうと思うが……
俺はこれからどうすればいいんだ?)
いつになく気弱になる。
そう、勇者の称号が役に立たないここでは、俺は素のアルティア・ノルン(17)なのだ。
多少武勇に優れただけで国家権力の後ろ盾もない個人。
そんな俺が、各国で結成された連合軍を壊滅し、人類から選抜された百人の勇者と相討った魔族の女王と戦えるのか?
少し寒気を感じ身を震わす。
いや、これは寒気じゃなく恐怖を感じてるのか?
あまりにも絶望的な戦力差に。
(だけど……)
俺は飲み過ぎて弛緩した身体に気を巡らしてゆく。
思い浮かぶのは闘いに挑む仲間達の誇らしげな笑顔。
俺達を信じて送り出してくれた諸国の王。
民衆の期待に満ちた歓声。
そして……故郷で待つ幼馴染の祈る姿。
震えが止まり、全身に活力が漲る。
そうだった。
例え世界が違えど。
勇者の称号が何の役に立たなくとも。
見知らぬ誰かの笑顔と明日の為に戦った、俺達の軌跡は無駄じゃなかった筈だ。
遥か遠き琺輪世界。
俺が迎えるこの朝を向こうの世界も迎えているのだろう。
争いは耐える事無く、世界の片隅で憎悪と悲しみの種火は燻る。
でも、今朝だけは。
今朝だけは憂いを無くし、希望を抱いた人々が朝日を迎えてるだろう。
それが俺達の為したささやかな報酬ならば、俺はこれからも戦い続けられる。
障子を開け放ち、中庭に出る。
朝の木漏れ日が優しく照り付ける。
(皆……ありがとう。
もう少しだけ頑張るよ、俺)
これだけは変わらぬ太陽の恩寵を身に浴びながら、
俺は改めて誓うのだった。