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58章 事態に嘆きし勇者

 再会と無事を喜び合う三人。

 恭介は色々と難しく考えていた様だが、その姿はまるで本当の家族の様だった。

 火事の方も結界を破壊した事により駆けつけた消防車により消火され始めて、気絶から目覚めた人々は自らの現状に不思議そうな顔をしながら呆然としている。

 召喚された妖魔達も元の世界へ召還されたようだ。


(どうにかなったな……)


 ミーヌの警告が的確で助かった。

 少しでも駆け付けるのが遅くなっていたら、死傷者を出していたのは確実だ。 

 安堵した俺は聖剣の柄に触れ、遅まきながらヴァリレウスへ感謝の言葉を投げ掛ける。


「ありがとう、ヴァリレウス。

 これからもよろしくな」

(釈明がまだ済んでおらぬが……

 頼りない主様じゃからのう。

 これからも妾が支えてやらねば、な)


 どこか面白くなそうな念話が答えた。

 その主の為に滅び掛けたのに……まったく素直じゃない。


(ホントこいつもツンデレというか何というか)


 俺は苦笑し柄の宝珠を軽く撫でまわした。

 不貞腐れながらも喜びに宝珠が輝きを上げ応じる。

 改めて剣皇姫との絆を感じたその時、ズボンに入れっぱなしだった携帯が着信音を上げる。

 誰だ? この携帯の番号を知る者はそんなにいないのに。

 表示された番号は非通知。

 俺は疑問に思いつつも電話に出る。


「はい、アルティアですが……?」

「ああ、アルティア君?

 初めまして、ヘルエヌです」

「なっ……!!?」


 通話先の相手の名乗りに驚愕する俺。

 本当に本人なのか!?

 しかし何だってこんな……!?

 思いがけない事態に理解が及ばない。

 当惑する俺を尻目に軽い口調でヘルエヌは会話を続ける。


「こうして直接お話するのは初だもんね。

 どうも、いつも部下が『お世話に』なってます」

「お前! 自分がしている事が」

「ああ、煩い説教はいらないよ。

 ボクは自分が悪を為している事を自覚している。

 君が如何に言葉を費やそうが……

 決して変わらないし、揺るがない」

「そうかよ……

 じゃあそのお前が、いったい何の用だ?」

「君には使える手駒を全て潰されたからね。

 挙句ボクの呪印も打ち破っただろ?

 ちょっと君に興味を覚えた事と……後は意趣返しかな?」

「意趣返し……だと?」

「うん。君と仲良くしてるウチの魔術結社の次期首領候補……

 ミーヌ・フォン・アインツヴェールがいるだろ?

 アレの身柄、こちらで押さえたから」

「なっ!?」

「君みたいなタイプは自分の苦境には強いでしょ?

 だから搦め手って訳じゃないけど、周囲の人間から責めていこうと思ってさ。

 君にはボクの仕事を散々邪魔されちゃったし」

「ミーヌは!? ミーヌは無事か!?」

「さあね。実はこう見えてもボク、結構残酷なんだ。

 犯して、

 弄って、

 身も心も凌辱し尽くしたら……きっちり殺しておくから。

 君は精々歯痒さに悶えててくれる?」

「貴様ぁ!!!」

「ああ、いいね。その声。

 次は直接苦悶に歪む顔を伺いに行こうかな。

 じゃあ、まった~ね~」


 明るい声で一方的に切れる電話。

 俺は真っ白になった頭で呪式を組む。


(行かないと……早く行って、確かめないと……)


 宝珠からヴァリレウスが、恭介が携帯を片手に制止しようとするのを振り切り、高速飛翔呪文を詠唱。

 せっかくミーヌに回復してもらったMPが尽きるのも構わず全力起動。

 過熱した意志に制御が及ばず神経系が悲鳴を上げるのも無視。

 俺は全速力でミーヌのいる森に降り立つ。

 そこで俺は気付いた。

 気付いてしまった。


「おまえ……そんなになるまで……」


 全身をボロボロに打ち砕かれた石の彫像。

 無惨に首の捥げたガーくんの姿が俺に更なる焦燥感を駆り立てる。

 雲を歩むような覚束ない足取り。

 震える手で教会の扉を開け放つ。

 そこに広がるは鮮烈な紅。

 見慣れぬ数人の生徒が血を流し転がっているだけ。

 繭に包まれ微睡んでいる筈だった俺の求める女性は……そこにはいなかった。

 何が起こったかそれだけで推測できる。

 推測、出来てしまう。

 影の纏い等強固な防御魔術を駆使した術者を打ち破るにはどうすればいいか?

 答えは簡単。

 人質などの命を使って自ら守りを解除すればいい。

 今回の例を挙げれば、推定だがヘルエヌはミーヌと親しい生徒に洗脳術式を施しここへ誘導。

 探知系の力を暗天蛇たるミーヌから奪い取ったヘルエヌなら、造作もなく探し出せる。

 そうして繭に籠るミーヌに告げるのだ。

 人質の命が欲しくば大人しく御出でなさい、と。

 その過程で人質に自らを傷つけさせれば効果は抜群だろう。

 人命を駒としか思わないヘルエヌだからこそ出来る策だ。

 俺は残り少ないMPを振り絞りながら回復呪文を生徒達へ施してゆく。

 湧き上がる衝動に咆哮しながら。


「この腐れ外道があああああああああああああああああああああ!!!!」


 遣い潰された哀しき名無の末路が脳裏に浮かぶ。

 ミーヌの頼みだからだけじゃない。

 俺は……俺自身の信条の為にも、ヘルエヌを赦せなくなった。


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