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53章 悔悟に裁きし勇者

 屋敷の奥から何かを破砕する音と共に悲鳴が聞こえる。


(あれは綾奈の声……!!)


 焦れる心を片隅に置きつつ俺は極めて冷静に廊下の隅を走る。

 武藤家は生活の場というその用途とは裏腹に、半ば城塞化した箇所がある。

 今突き進んでいるこの場所こそ正にそれで、決まった手順で進まないと罠が発動するのだ。

 俺は武藤翁と恭介に雑談として聞いていた。

 広大な屋敷のあちらこちらにトラップに撃退された人間や妖魔達を見た。

 っていうかヘルエヌの洗脳術式でリミッターの外れた筋力を持つ傀儡達やダンジョンを徘徊する妖魔達を再起不能リタイヤさせるってどんだけ周到なレベルなのやら。

 顔に似合わない絡め手が好きな武藤翁のやり口に思わず苦笑する。

 そんな事を考えている内に最奥部の広間に着いた。

 強固なシェルターが強引に破壊され内部が見える。

 俺は気配を殺しそっと中を窺う。

 築かれたバリケードの先、妖魔達に囲まれ今にも襲撃されそうな武藤翁と綾奈の姿を確認。

 両手にごっつい重火器を持ち険しい顔で弾幕を張る武藤翁。

 隣りには泣くのを堪えながら給弾手を務める綾奈。

 懸命な二人の対応だったが、いずれ弾は尽きる。

 そうなれば二人に待ち受ける運命は決まってる。

 それは無論、


「皆と笑顔で再会し合う運命だがな!!」


 俺が来て間に合った以上、暗鬱たる未来になど絶対させない。

 掛け声と共に手持ちの閃光手榴弾を全て投擲。

 閃光と爆音を齎す触媒を素に俺は今使える最大の洸魔術を発動。


「震灼光閃<ブリンククエイク>」


 筒の中にある点火薬、雷酸水銀と発光マグネシウムが魔術に共鳴、広間を照らし出す。

 眩い輝きの失せた後、そこに残るのは呆然と周囲を見渡す武藤翁達だけ。

 広間を埋めつかさんばかりだった妖魔達は全て倒れ伏していた。

 これこそ俺の切り札の一つである生命構成素の強制励起。

 洸波を以って対象の生物のマテリアルに強引に干渉し、通常状態から数百万回強制振動。

 生命構成素の自壊を招くというものである。

 よしんば術式にそのものに耐えたとしても、副次効果として振動過程で出た高熱が対象者の損傷となるので、二段構えの必殺呪文ともいえる。

 この魔術の使い出の良いとことして対象者を任意で選べると共に、触媒にもよるが広大な範囲を捉える事が可能だという事。

 つまり戦場でぶっ放せば味方は無傷で敵だけを斃すことが出来る。

 前衛職には少ない大規模広域殲滅魔術の一つであった。


「無事か、二人とも!」

「アル!」

「アル君!!」


 声を掛けた俺に歓声を上げ駆け寄ろうとする武藤翁と綾奈。

 俺は二人を受け入れ様として、


「バレバレだぜ、先生」


 突如背後から俺を狙った魔力光を、光術反射の鏡術式で跳ね返した。

 闇属性でもある攻撃だった故、若干の不安はあった。

 だが光という性質故に反射する事は可能だった様だ。

 俺は無言で奥を示し、二人は頷き更なる奥へ姿を隠す。


「あら、私の事をよく知り得たわね?

 一応姿は消してたのだけど」


 構える俺の先、倒れ伏す妖魔達の影から上半身のみを覗わせた名無が嘲笑う。


「はっ……ゲスっぽい匂いがプンプン臭ったからな」

「酷い言い様ね、担任に対して。

 正しい口の利き方を教えてあげようかしら」

「いや、『元』担任だから問題ないさ。

 闇に心を売り渡した愚かなアンタには、な」


 本当はミーヌの話を聞いた時、単純に手駒で動かせるのが名無だけだと判別したからだ。

 あれほどいた傀儡達は数を減らし、先程再展開した広域探査呪文に浮かぶ光点は名無を含めあと二つ。

 ここに名無がいる以上、ヘルエヌに間違いあるまい。


「言ってくれるじゃない、アルティア君。

 それで……君は私をどうしたいの?」

「無論止める。アンタは人として人に裁かれるべきだ」

「あははあはっはあはっはあははあはははははは!!!!!

 ヘルエヌ様の呪印に侵され死ぬ間際の貴方が超越者たる私を止める?

 はっ、寝言は寝てから」

「呪印は打ち破った」

「えっ!?」

「ヘルエヌだって万能じゃない。

 あいつが……ミーヌが命を賭してくれたお蔭で俺は助かった。

 アンタはおそらくヘルエヌの指示で動いてるのだろうが、それは術式を打ち破った俺達に対する腹いせに過ぎない。

 子供だよ、ヘルエヌは」

「……るっさい」

「え?」

「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいウルサイ五月蠅い!!

 だから何!? だから何だ!?

 それでも私があの方に重畳されていることには変わりない!!」

「……知らないアンタの為に教えておいてやるよ。

 アンタがヘルエヌから授かったと思う召喚術。

 あれな、術者の寿命を削る」

「なっ!!」

「何の代償もなく高度な術式をこなせる訳がないだろう。

 まして先日まで魔術も知らなかった者が。

 アイツがアンタに与えたのは自らの命を召喚物に喰わせ従える禁断の秘術だ。

 長らく使い続ければ、アンタは死ぬ」

「そんな、そんな事が……」


 驚愕の事実に後ずさる名無。

 その腰元から金属塊が転がり落ちる。


「それは!!」


 考えない様にしていた事態。

 あの状況から俺とミーヌはどのようにして生き延びたのか。

 また俺の元に聖剣が無いのは何故か?

 その答えは明白だった。

 転がり落ちた金属塊。

 優雅な装飾は剥げ落ち、柄の金属は朽ち果てている。

 勇者たる俺の相棒にして伝説の聖剣。

 人間たる俺の相方にして神々の一柱。

 それは神々が魂を宿したという神担武具の一つ、剣皇姫ヴァリレウスの化身。

 聖剣シィルウィンゼアの成れの果てだった。


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