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50章 自分に恥入る勇者

 立てつけの悪い教会の扉を苦心し、そっと閉める。

 振り返った視線の先、術式から生み出した闇色の繭に包まれ眠りにつくミーヌの姿が見えた。

 俺のアストラルを治癒し再構築する為とはいえ、

 心理抵抗により魔力の損耗が激しい精神世界にダイブ。

 更に追い打ちを掛ける様にヘルエヌの術式による度重なるダメージ。

 本来であれば昏倒してもおかしくない疲労だった筈。

 それなのに俺の軽口に付き合い、

 嬉し泣きし、

 笑顔で送り出してくれたミーヌ。

 本当に俺には過ぎた女性だ。

 ふと先程までの事を思い出し俺は赤面する。


(知らなかった……俺って結構Sチックだったんだな……)


 惹かれ合う俺達。

 互いに想いを告げ、晴れて成就したというのに。

 愛しさが溢れる反面、ミーヌの事を苛めたい……

 いやいや『可愛がりたい』って思う自分がいた。

 綾奈の専門知識を引用するなら、

 俺は「俺様攻」で、

 ミーヌは「健気受」なのだろう。

 俺のささいな言動や行動に一喜一憂するミーヌ。

 そんなミーヌの反応や言葉をもっと見たいし聞きたい。

 何よりアイツの事を想うだけで心が温かくなり気力が満ちる。

 これが恋と呼ばれるものなのか俺には分からない。

 でも数時間前の俺とは違う気がした。

 今なら勇者としての在り方に囚われない、

 俺個人としての生き方を為せると思う。


「クア」


 森の木陰からミーヌの使い魔である小振りな有翼の彫像が現れ、俺に声? を掛けてくる。

 俺はその胸元を軽く裏拳で小突き、


「じゃあ行ってくる。

 その間、アイツをよろしくな」


 と答え返した。

 ガーゴイル風使い魔(ガーくん?)は器用にも敬礼し応じる。

 術者の力量にもよるが、使い魔を作成する擬似生命付与には術者の個性が反映される。

 ユニークでどこか憎めないこのガーくんにミーヌの面影を見た。

 今すぐミーヌの元に駆け戻りたい衝動を断ち切り俺は高速飛翔呪文を唱える。


「光翼飛翔<リアクターウイング>」


 展開される光翼。

 空を掴み、宙に舞う。

 凝縮した空気が翼に渦巻き俺に凄まじい推進力を与える。

 急加速に流れていく景色。

 ここは郊外の森林地帯だった様だが、すぐに街へ戻れるだろう。

 だが、俺は術式を維持しつつふと気付く。

 光翼の輝きが違う。

 さらに……何だろう?

 微細な違和感を感じる。

 世界の修正力による能力の減衰とは違う。

 分からない単語を辞書無しで探すような、ピースの欠けた異物感にも似た疑念。

 しかしそれも武藤家を見下ろした瞬間消え去った。

 何故なら。

 闇夜に浮かぶ武藤家。

 それは……炎上していた。 




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