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49章 素敵に鬼畜な勇者

「じゃあちょっと様子を見てくるけど……ヘルエヌの事もある。

 結界を過信せず気をつけろよ」


 歓喜故か未だ涙するミーヌ。

 流れる落ちる綺麗な透明の雫を指で拭い、俺は幼子をあやす様に髪を撫でながら言った。


「うん。でも……なるべく早く戻ってきてくれるか?

 その……我儘かもしれないけど、なるべくアルの傍にいたい……」



 上目遣いで不安そうに尋ねてくるミーヌ。

 胸元で握り締められた指が俺のシャツをいじましく摘まむ。

 ああ、もう! 

 何でこいつはこう天然に男心をくすぐるのかな。

 極めて冷静に振る舞おうとした理性を跳ね除け、荒々しい衝動が鎌首を擡げる。

 俺は胸の内から湧き上がるその衝動を否定する訳でも肯定する訳でもない。

 ただミーヌが愛しいと思った。

 だから駆られる想いに身を委ねる。

 すると俺はいつの間にかミーヌの首元に口付けをしていた。


「ふあ……」


 耳まで真っ赤にして反応するミーヌ。

 蒸気した頬に揺れる形のいいまつ毛。

 普段冷静というか落ち着き払った態度のミーヌが、俺の一挙一動に反応する。

 少し面白くなってしまった。

 今度は赤くなった耳を指先で挟むように愛撫してみる。


「んっ……」


 切なげな溜息を洩らし身を捩る。

 触れ合い密着する身体。

 体温が上昇し、汗ばむくらいに熱い。

 よくよく考えれば、全裸の上に制服を羽織っただけの扇情的な姿をミーヌは晒している。

 俺の視線に気付いたのか、ミーヌは顔を背けながらも襟を合わせ胸元を隠そうとする。

 今更羞恥に目覚めた訳ではあるまいに。

 いや、ひょっとして俺の前だけでは特別なのか。

 じっと見つめると横目でチラチラと俺を見返してきた。

 そんなミーヌが可愛くてつい意地悪したくなる。


「ミーヌってさ……結構敏感なのな」

「なっ! なにを言ってrtghjきおkjhgfd」


 顔を上気させ言葉にならない反論をするミーヌ。

 一生懸命手を振って否定するがどこか弱々しい。

 ……そんな仕草が余計に、如実に事実を語ってしまってるというのに。


「うー……だって仕方ないではないか。

 好きな人に触れられてるのだぞ?

 アルに触られるだけで何故か身体が熱くなりゾクゾクするのだ

 我だって、私だって自分がどうしていいのか分からない……」

「嫌か?」

「嫌じゃない! もっと触れて欲しい!

 ……あっ」

「へえ~ミーヌはもっと俺に触れてほしいんだ?

 結構積極的なんだなー」

「うー! うー!!

 ……いぢわるぅ」


 再び涙ぐむミーヌ。

 やばい。今度は少し嗚咽が交じってる。

 あわわ。

 今まで散々からかわれてきた意趣返しとはいえ、少しやり過ぎた。

 俺は慌ててミーヌへ真摯に向き合い謝罪する。


「ごめん、ミーヌ! 今のは俺が悪い。

 お前の反応が可愛いとはいえ、マジでやり過ぎた!」

「……せっかく両想いになれたと思ったのに……(ひっく)……

 アルってば意地悪ばっかだし……

 これじゃ私ばっかり……(えっぐ)……舞い上がってるみたいじゃないか……」

「そんな事ないぞ。俺だってホントに嬉しい」

「……本当ぅ?」

「ああ、本当だ」

「じゃあ……じゃあ、証拠を見せてくれないか」

「証拠?」

「ん……」


 俺の瞳を真剣に見た後、目を閉ざし頤を上げるミーヌ。

 幾ら鈍感な俺でも何を欲求されてるかは分かる。

 分かるが、未婚な俺達が誓いの証を立てる訳にはいかない。

 さんざん迷った末、俺はミーヌの腫れた両瞼に素早くキスを交わす。

 ヘタレと言いたくば言え。

 だが本当にミーヌを大切に思うからこそ軽率な行動は出来ない。


「む~~~~~!!

 アルの意気地なし!」


 無論俺の想いが通じる訳がなく、俺のお姫様は御立腹だった。


「今はこれが精一杯。

 続きは後で……な?」

「ん~上手く丸め込まれてる気がするけど……

 私だってアルが大事だからな。

 いい女は笑顔で待つ事にする」


 向日葵の様な満面の笑顔で応じるミーヌだった。


「じゃあもう休め。

 さっき聞いたが、繭とやらに包まれてれば回復するんだな?」

「正確には『微睡みし常世の深淵』という術式なのだがな。

 本来は『夢現なる微睡みの目覚め』の下位互換に辺り、闇の繭衣で対象者を包み昏倒させ、悪夢すら視ない覚めない眠りへと誘うというもの。

 だが副次効果があってな。

 本来の用途は苦しみを伸ばす為なのだろうが、夢世界で過ごす1時間は現実の一日に値する。

 よって繭の中で静養すれば回復時間を大幅に短縮出来る。

 残存魔力にもよるが、半日もあれば全快する筈だ」

「……分かった。

 でも早く良くなってくれよ。

 じゃないと本気で攻められないし」

「なん……だと?

 ……あれほどの攻めは、アルにとって序章に過ぎぬ、と!?

 恐るべし光明の勇者アルティア・ノルン。

 我は……我は戦力を見誤ったのかもしれん……」


 俺の軽口に戦慄するミーヌ。

 いや……あんまり本気に取られても困るんだが(汗)


「ま、まあともかくこう見えても俺はお前の事を案じてるんだよ」

「大丈夫だ。アルは心配性だな。

 それにいざとなったら使い魔のガー君がいるし」

「……あいつ、いるのか?」

「うん。今は外で見張り番をしてもらってるぞ」

「そっか。じゃあ頼もしいな」

「だから大丈夫。アルも気をつけて」

「ああ、行ってくる」


 俺は寂しそうに笑うミーヌの頬を撫でると後ろ髪を引かれる思いを強引に断ち切り外へ出るのだった。


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