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41章 華麗に舞いし剣姫

「こうして直接相まみえるのは本当に久しいのう」

「貴女が十二皇琺神たる立場を捨てて以来だ、ヴァリレウス」


 呆然と呟いたミーヌへ対し、どこか面白がるように話し掛けるヴァリレウス。

 それが分かったのか、ミーヌも不機嫌そうに応じる。

 無論こうして雑談を交わす間も油断するような二人(二柱?)ではない。

 油断なく視線を配り召喚陣から転び出た妖魔達の動向を隙なく窺っている。


「そうじゃったな……

 あれからもう幾千年も時を経たのか……。

 永いようで短いような不思議な感覚じゃ」

「確かに」

「因果の螺旋はなかなか断ち切れぬからのう。

 それ故お主は愚かな同胞を捨てきれなかったのだろう?

 優しき者じゃな、ミィヌストゥール」

「ミーヌだ。

 今の我はミーヌ・フォン・アインツヴェールという一人の人間だ。

 魔族の女王たるかつての忌み名は捨てた」

「魔族か……

 今世の人族はかつての汝らをそう呼び慣わしておるのじゃな」

「ああ、そうだ」

「ふむ……妾達神族と汝ら魔族が元は同じ『真族』という、起源を共にする種族だと知ったら……皆はどう思うのじゃろうな?

 人を守りし神族。

 人に仇為す魔族。

 同じ絵札の表と裏に過ぎぬと知ったら」

「さあ? 案外すんなり受け入れるかもしれない。

 貴女達十二皇琺神を含む108柱は物質界に依存することなく幽界に自らの本質を置いた。

 世界に同化し、祈りによって支えられる存在へ昇華する事によって。

 その成れの果てがその神担武具という訳なのだろう?

 世界の秩序と安寧を見守るという御題目の為に、数多を犠牲にしながら!」

「……かつて汝の同胞らは世界全てを欲した。

 ありとあらゆる生命を以って、根源に至る扉を開かんが為。

 故に妾達は自らを犠牲にしても汝らを止めねばならなかったのじゃ」

「我等を裏切って人族に味方した理由がそれか」

「汝らは『奴』に利用されておるだけなのじゃよ。

 汝ら魔族の王であり、

 十二皇琺神最高の叡智を誇ると謳われた転輪皇に、な」

「納得がいかない!

 それが我等を裏切った理由になる訳がない!!」

「まあ、今は得心がゆかなくとも仕方ない。

 説得する時間も暇もないしの」

「え? な」


 飄々と告げたヴァリレウスはミーヌへ目掛け聖剣を向ける。

 刹那、無造作に剣を振るう。

 ズサっ!!

 一撃であった。

 只の一太刀で真っ二つになった。

 ミーヌの障壁の及ばぬ、

 足元から忍び寄ろうしていた鉄より硬い外皮を持つ妖百足が。

 華奢そうな外見とは裏腹に、ヴァリレウスの振るいしは床をも穿ち斬る豪剣であった。


「ちっ」


 舌打ちをする名無。

 訳の分からぬ話を始めた二人であったが、仲互いをした瞬間を狙って片割れを襲わせたものの、やはりそう上手くはいかなかったらしい。


「あっ……

 す、すまない……ヴァリレウス……」

「いやいや、この程度はお安い御用……

 と言いたいが、そうもいかぬらしい」


 毒気が抜けた様に感謝の言葉を掛けるミーヌ。

 しかしそれに応じるヴァリレウスの顔は昏い。


「? あ、それは!?」


 ミーヌの注視した先。

 美麗な文様が刻まれた聖剣の刀身。

 その刀身に微細な罅が入っていた。

 いや、それは刀身だけではない。

 現界したヴァリレウスの全身が色合いと存在を淡くし、消えゆこうとしている。

 それはコンクリートの地面を斬った事による損傷ではなく、


「やはり担い手の魔力補助を受けずに強引に現界するのは、無茶が過ぎたか」


 力に任せ手順を踏まずに具現化したことによるリバウンドだった。

 その綻びはヴァリレウスの分身たる聖剣にも現れてしまっていた。


「ヴァリレウス……やはり現界するには無茶をしていたのだな。

 貴女のような神霊が物質界に具現するには相応の対価が必要なのに。

 貴女は自分の力を用いて世界の認識を偽証してるに過ぎない。

 いうなれば、自らの身を削りながら具現化し続けている。

 そのままでは貴女は……」

「ああ、汝の指摘通り長くは持ちそうにないじゃろう。

 ……故に、ミーヌよ。

 逃げろ。

 妾が持ち堪えてる間に。

 そして出来るなら妾の主様を助けてくれぬか。

 それは闇魔術の遣い手たる汝にしか頼めぬことじゃ」

「しかしそれでは多勢に無勢で」

「見誤るな!!」

「!!」

「今、何を優先すべきか常に考えよ。

 遥か神代の昔にも教えた筈じゃぞ?」

「……了承した。ここは甘えさせて頂く」


 ミーヌがアルを抱えながら手で印を刻み石を放り投げる。

 その瞬間、ミーヌの足元に傅く有翼の彫像が具現化する。

 付与によって擬似生命を得た使い魔である。

 小振りな見掛けだがミーヌとアルを背負って高速で飛ぶほどの力を秘めている。

 ミーヌは無言で彫像にアルを抱かせるとその背に掴まる。


「……では、申し訳ないが行かせてもらう」

「ああ。

 頼りないくせにお人好しで浮気性な……

 妾の大事な主様をよろしく。

 それとミーヌ、一つ確認しておきたいのじゃが」

「……何?」

「汝らが逃げる時間を稼ぐのはいいが――

 別に、こいつらを斃してしまっても構わぬのじゃろ?

 後腐れのないように」


 強がりにも似た口調なのに悪戯めいた微笑を浮かべるヴァリレウス。

 その台詞にミーヌも弾けたような笑顔で


「御武運を!!」


 と告げ、使い魔に逃走を指示する。

 夕闇が深まる上空を羽ばたく有翼の影。


「逃すか!! 殺せ!!」


 隙を窺っていた名無が慌てた様に命を下すも、そこに立ちはだかるは剣の女神。

 108柱の神々の中、誰よりも剣を扱う術に長けし存在。

 戦場に立つ彼女の姿はまさに獅子奮迅たる佇まいだったという。

 味方には勇気と畏怖を。

 敵方には恐怖と戦慄を。

 故についた名が『剣皇姫(鬼)』。


「今にも消えそうなこの身じゃが……

 まだまだお前達に獲らせてやる訳にはいかぬ!!」


 魑魅魍魎の軍勢へ烈風と化し斬り込むヴァリレウス。

 神と妖が入り混じる、魔戦の宴の始まりだった。


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