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36章 暴徒に焦りし勇者

 こんにちは。

 光明の勇者という称号を大陸連盟より正式に授かったアルティア・ノルンです。

 勇者という称号を得るにはそれに見合う実力は勿論、実績も必要とされます。

 俺の例で云えば、辺境を荒らし回っていたレッドドラゴンの討伐。

 復活したノーライフキングの撃退等が民衆に支持されたのかもしれません。

 自分自身は名声になど興味はなく、

 皆の喜ぶ笑顔が何よりの報酬だと思ってましたが……

 やはり戴冠式に仲間とおもむき称号を授与された時は、何だか感慨深いものが込み上げてきました。

 駆けつけてくれた同郷の人達、

 特に幼馴染の顔を思い出すだけで誇らしくなります。

 勇者とは勇気ある者の意。

 この昏い時代に、俺が希望の燈火となれれば幸いですね。


 ……ってまあ、

 いきなりこんな錯乱したようなコメントで何を言いたいのかと言うと、


(何でこんなことになっとんのじゃ!!!!????)


 俺は豊かな双丘で挟み込む様に左腕に寄り掛かるミーヌを見下ろしながら心の内で絶叫した。




 まあまて。

 少し状況を整理しよう。

 先程の話。

 ミーヌの協力要請に俺は躊躇いつつも承諾した。

 決断の日までまだ時間があるし、こいつの手伝いをすることが結果として武藤翁達に対する間接的な支援にもなるしな。

 幸い送り迎え時の綾奈の護衛は、恭介を含む組の人達がやってくれることになってるので(この話し合いに来る前、恭介に交代してきた)まず安心だ。

 それに強大な女王の力を、欠片とはいえ私利私欲の為に振るう者は見逃すわけにはいかない。 

 うん。論理的。

 何も矛盾してない。

 だが了承を伝えてからミーヌの態度が一変した。

 有り体にいえば壊れた(綾奈に教わった知識なら『デレた』?)。

 歓声を上げて喜ぶだけに留まらず、俺に抱きついてきた。

 強引に引きはがす俺。

 利き腕は勿論、いざという時に身体が動かせない状況は勘弁してほしい。

 慌てふためきながらも、そんな事をミーヌに告げたと思う。

 頬を膨らませ、上目遣いにすご~~~~~~く不満そうに見詰めるミーヌ。

 しかし思うとこあったのか、俺から素直に離れた。

 安堵の溜息をつく俺。

 その一瞬の油断を逃さず、腕を抱え込むミーヌ。

 どういう事だと問い詰めると、二人で行動するには怪しまれない為に恋人の偽装が必要とのこと。

 本当かどうか尋ねると、顔を赤らめながらあらぬ方を見やるのみ。

 ……まあ公衆の面前で俺が婚約者とか何とか言ってたし、こいつも引くに引けないのだろう。

 つい先日まで命のやり取りをしてた仲なのにな。

 俺は何度目かになるか分からない溜息をつくと、探査呪文を使いやすい本校舎屋上へミーヌと共に歩むのだった。

 ……のだが。


「なあ、ミーヌ」

「どうした、アル」

「何だか擦れ違う生徒の視線が痛いんだが……」


 そう、冒頭でも内心叫んだようにミーヌに寄り掛かられたまま歩く俺に無遠慮な視線が刺さる。

 両手を戦慄かせ驚愕する者。

 頭を振り乱して絶叫する者。

 地に伏せたまま絶望する者。

 多種多様、様々な反応を見せる生徒達。

 さらに擦れ違い様、


「……死ね」

「滅びろリア充」

「モゲロ」


 だのと呪詛の言葉を浴びせられる(男女の差なく)。

 日本の神様……

 俺、勇者としてこっちの世界で何か悪い事しましたか?


「私とアルの仲に嫉妬してるだけだ。気にするな」

「いや、俺とお前はどんな仲でもないのだが……」

「何を今更ふふん

 お互いに突き合った(漢字が違う)仲ではないか。

 アルの大きく熱いのが突き刺さった時、流石の私も死を覚悟したぞ」

「なっ!

 おま、そんなことを言ったら……!」


「「「「「なにいいいいいいいいい~~~~~!!!」」」」」


 ミーヌの戯言に殺気立つ生徒達。

 行動が早い奴はロッカーから得物を取り出し始めてる。

 この雰囲気はヤバイ。

 かつて民衆の反乱に巻き込まれた時、こんな無差別バイオレンスのオーラを纏った暴漢達がいたが、今は更にヤバイ状況と直感する。

 俺はミーヌをお姫様だっこすると、今にも襲い掛かってきそうな生徒達の間を潜り抜け屋上を目指す。


「逃げたぞ!!」

「追え!!」


 執拗に食い下がる生徒達をステップ等を駆使し、切り抜ける。


「まったくアルはそんなに一生懸命になって。

 あは。ふふふふふあはははあははは」


 俺に抱えながら首に手を回し笑い声をあげるミーヌ。

 童女のように無垢な笑み。

 そんなミーヌの笑みを見て、俺は当惑する。

 何が正しく、何が間違いだったのだろう、と。


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