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35章 告白に肯きし勇者

「そういえば他に訊きたい事があるんだが」

「なんだ?」

「廃ビルでの一件、その他諸々など」

「……やはり話さねばならないか」


 俺の問いに言い辛そうに口澱む女王。


「まずアルよ。

 恥ずかしげながら打ち明けさせてもらうが……

 我は力の欠片を人間に盗まれた」

「え?

 お前ほどの奴が、いったい誰に!?」

「我の憑代(同一存在)たるこの娘が所属せし魔術結社の幹部、

 ヘルエヌ・アノーニュムスによって。

 さらにこのミーヌの父親であり前首領である者の仇でもある」

「おミィヌにとっては仮初めなれど、そのミーヌにとっては紛れもない父を殺されたのか?」

「然り。

 ……この世界に転生した我は術式の成功を喜ぶと共に、全てのしがらみから解き放たれた解放感に浸っていた。

 有り体に言えば浮かれていた。

 それが故に気が付かなかったのだ。

 不治の病ということで入院し、そして亡くなった筈のこの娘に、毎日見舞いに訪れるそいつの不自然さを」

「どういうことだ?」

「アルよ、我の説明で不思議に思わなかったか?」

「ん?」

「この世界の魔術結社に属する娘、そして次期後継者とも噂されるほどの魔力を持ちながら、何故病なんぞに倒れたのか、と」

「それは確かに違和感を抱いたが……

 もしかして?」

「ああ、我が調べた結果判明したのはこの娘は魔術による呪いを受けていた。

 しかも前首領たる父親ですら解呪できぬほどの。

 日々衰弱し、死が近づく娘。

 父たる前首領の焦りは相当なものだったのだろう。

 憔悴し、心労で身体を壊すほどに。

 反首領派だった者達にとっては目論見通りだったに違いない。

 だがそこで奇跡が起きた。

 順当に死んだ筈のミーヌが奇跡的な回復を遂げたのだからな。

 まあ実際は我がリライトに成功しただけっだのだが。

 しかしそんな中でも反首領派に属していた幹部ヘルエヌは冷静だった。

 本来助かる要因がない我が助かったのは、何か原因がある、と。

 我を心配する素振りをしながら探りを入れてたのだ。

 我はそれに気が付かず、愚かな事に信頼してしまった。

 力の象徴たる髪という媒介を渡してしまうほどに。

 伸びすぎた髪を切り揃えるというヘルエヌの甘言。

 琺輪世界では絶対にさせない行為だったが、ここ日本ではそれが普通と説得させられた。

 そして……結果は『持って行かれた』。

 今の我は召喚能力などを含む幾つかの力を扱う事が叶わぬ状態だ」

「ん? ちょっと待て。それはおかしい。

 だってお前、廃ビルの屋上で召喚してただろう、妖魔の軍勢を」

「それなのだよ、アル」

「え?」

「汝を監視していたのは我の使い魔である事に間違いない。

 さらに凶弾に倒れそうになった汝の恩人の娘を助けたのも我だ。

 流石に見るに見かねたので、

 守護魔術「隔絶されし影の纏い」を掛けさせてもらった。

 されどビルごと下手人を始末した「闇を喰らいし獰猛なる咢」の魔術や召喚能力を含む力を振るっていたのはヘルエヌの仕業だ。

 俗物な事に、奴は得た力を利用し、この国の犯罪組織と結び付き巨額の富を得ている。

 我はそれを止めようと使い魔達を放ち奴の所存を探ってるが……

 皆目見当もつかぬのが現状だ。

 這い寄りし千貌の異名とやらは伊達ではないらしい」


 溜息をつく女王。


「長い話になったが、これが大まかな推移だ。

 そこでアルよ。相談というかお願いがある。

 琺輪世界に帰るか否か決断するのも重要だが……もしよければ我を手伝ってはくれぬか?

 このまま奴を野放しにするわけにはいかぬ。

 それが力の持ち主でもあった我の責任だろう。

 それに、今奴が所属している犯罪組織の次の目標は汝が身を寄せし組合らしい。

 汝にとっても利はあると思うが」

「な!」


 告げられた女王の言葉。

 頭の中でピースの欠片がピタっと嵌った感じがした。


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