30章 神々に祈りし勇者
「ミーヌ先輩と一体どういう関係なの!?」
死力を尽くして命を奪い合った仲なのだが。
「ききき貴様ぁ! 我らがミーヌ先輩と、ああああああんな破廉恥な行為を!?」
押し倒した非は認めるが、口付けはどうみてもアイツの方からだろ!?
「凄い熱々よね。
ふか~~~~い仲なんだ」
だから勇者と魔族の女王という(以下略)
矢継ぎ早に繰り出される質問疑問怒号に俺は対応に窮する。
そんな俺を見て女王はクスッと微笑むと、俺の腕を解放する。
「ここは騒がしい。
旧交を深めるのは後程にしよう、アル」
「え? あ、ああ」
促されたまま頷き承諾を強要される。
「それでは皆、御機嫌よう」
告げるだけ告げるとミィヌは身を翻し食堂から出てゆく。
流れる金髪が弧を描き、翻るスカートが舞踏会を連想させる。
陶然とその後姿を見送っていた者達は慌ててその後を追い始める。
俺は今まで経験したことがない緊張からやっと解き離れた。
そっと掌を確かめる。
女王が騒動の最中に忍び込ませたメモ。
そこには『放課後旧校舎の図書室』と書かれていた。
あの騒動の中こんなメモを書く余裕があるか?
おそらくない。
ならば最初から用意されたものに違いない。
ということはこの騒動は想定されたものだったのだ。
何が「我にとっても想定外」だ、あの女狐!
こうなる事態、こういった状況を楽しんでいたに違いない。
だいたい何なんだ、あの婚約者うんぬんは!?
女心は分からないとカイルがよくボヤいていたが、まったくその通り。
だって俺とアイツは死闘を繰り広げた仲なのに……
人族の勇者と魔族の女王という水と油にも似た反発し合う関係なのに……
……あんな、あんな恋に夢見るような少女の瞳で迫られたら……突き放せないじゃないか。
こういった事にまったく免疫が無い俺は悄然とテーブルに項垂れる。
そんな俺を見兼ねたのか綾奈が水の入ったコップを差し出してくれる。
「あ、ありがとう綾奈。
ちょうど喉がかわぃ……」
礼を告げコップを受け取ろうとした俺は見てしまった。
にっこり笑みを浮かべる綾奈の眼が、少しも嗤っていない事に。
「ちゃあああああああああああああ~~~~~~んと、
説明してくれる? ア・ル・君」
いるかどうか分からないが……日本の神様。
どうやら俺には逃げ場も安住の地も無いようです。