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25章 感慨に耽りし勇者

「ここが学園か……」


 車から降り立ち、学園を見上げる。

 広大な敷地に整然と立ち並ぶ建物。

 王宮もかくやというその佇まいに俺は感嘆するしかない。

 ここに知識を学びし者達が集い切磋琢磨するのかと思うと、この世界の教養の高さが知れる。

 求めるなら誰でも学ぶ事が許され、さらに国がそれを推奨し保障する。

 経済的事情により学ぶのが困難な者にすら救いの手を差し伸べる。

 この世界……この日本という国は、本当に豊かだ。

 俺は車中で聞いた暗澹たる武藤翁の話を一時忘れ感慨に耽る。


「なかなかのもんじゃろ、アル」


 そんな俺に武藤翁が声を掛けてきた。


「ええ、正直驚きました。

 こんなに広大だとは……」

「儂の知り合いが学園長をしていてな。

 その縁もあって綾奈もここに通わせたのじゃ。

 防犯はしっかりしておるので大丈夫だと思うが、昨夜の様な事もある。

 お前さんの力の及ぶ範囲でいい。綾奈を守ってやってくれ」

「承知しました。

 一命に代えましても」

「そんなに畏まらんでいい。

 じゃあ行くか」

「では組長、私は綾奈嬢をクラスへお送りしてからここで待機してます」

「また後でね、アル君」

「頼むぞ、恭介」

「ああ、綾奈をよろしくな。

 俺も挨拶が終わったらすぐ合流する」


 恭介を伴った綾奈と別れを告げ、

 俺と武藤翁は学園長室へと向かうのだった。




「久々じゃな、佐之助」

「何を言う。

 昨日も電話で話したろ、考右衛門」

「あんなやり取りは論外じゃろ。

 こうして顔を付き合わせるのが筋というもんじゃろうよ」

「違いない」


 互いに笑い合う武藤翁と学園長。

 旧知の仲とは伺っていたが、かなり親しいらしい。

 学園長は武藤翁と同年代。

 洒落たスーツを着込み口髭がダンディなジェントルマンである。


「ところで……その子がそうかな?」

「ああ、儂の命の恩人だ」

「ではまずは自己紹介を。

 わたしの名は相良佐之助。

 この黎明学園の学園長をしてる」

「こちらこそ自己紹介が遅れました。

 俺の名はアルティア・ノルンといいます。

 本日よりお世話になります」

「ああ、綾奈君の警護も兼ねると聞いた。

 綾奈君と同じクラスに留学生として編入出来る様取り計らっておいたからね。

 色々大変だと思うが、わたしにとっても孫娘みたいな子だ。

 事情が事情だけに応援は出来ないが、くれぐれもよろしく頼むよ」

「はい、ありがとうございます」

「今回は急な話を聞いてもらってすまなかったのう」

「何を言う。いつも無理難題を押し付ける癖に」

「そこは儂とお前の仲じゃろ」

「まったく学年一の秀才が「正義のヤクザ」になると言い出した時は、勉強のし過ぎでおかしくなったかと思ったが、お前のその様を見てると似合い過ぎてるしな。

 いや、しかしあの時止めておれば……」

「それを言ったらお前さんだってそうじゃろ。

 学年一の不良が「教育者になるから勉強を教えろ」と言い出し始めた時は、喧嘩で頭を打ったかと儂も思ったわ」

「それはまあ、認めたくない若さ故の過去というか」

「い~つもそうやって都合の悪いとこは認めんし」

「何を! お前だって昔は……」


 漫才じみた掛け合いを通じて旧交を深める二人。

 俺はそんな二人を見やりながら苦笑を浮かべるのだった。


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