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21章 疑惑に煩いし勇者

 意識のない綾奈を背負い、警戒しながら帰路に着く。

 日中とは打って変わって、どこか無機質で寂しい街をゆっくり歩きながら先程の事を回想する。

 まるで綾奈を守るかの様に現れた闇の障壁。

 洸魔術と対を為す闇魔術。

 アレはその中でも上級防御呪文「隔絶されし影の纏い」に酷似していた。

 結界の境界を平面世界へのゲートと結ぶ事によりあらゆる物理攻撃を遮断、絶対の守りと為す。

 それこそこんな不条理な守りを打ち破れるのは、

 優れた概念武装の使い手か、

 神々の代弁者である神担武具の担い手、

 あるいは物理法則を凌駕する< >の継承者のみだろう。

 最終決戦の際、女王は全身にこれを纏っていた為、俺達は苦心させられたのだ。

 苦い思い出に眉を顰める。

 そしてビルごと男達を排除したのは「闇を喰らいし獰猛なる咢」の呪文か。

 防御呪文とは逆のコンセプトで、任意に展開した平面世界へ強制的に飲み込ませ削り取る、絶対の攻め。

 触れただけであらゆる装甲や障壁を無効化し貪り尽くす、世界から強制排除する恐るべき術だ。

 あれほど瞬時に、しかも同時に高難度の魔術を展開する手並み。

 おそらく女王本人のものとみて間違いない。

 だがそこで疑問が浮かぶ。

 何故、綾奈がこれに守られたか?

 何故、綾奈を拉致した者達は消されたのか?

 そして……何より。

 何故、俺は殺されなかったのか?

 女王にとって俺風情は消す価値もないのか?

 しかし彫像を使い監視するくらいには目障りだろうし……

 色々思考を張り巡らすも、結論には至らない。


(前途は多難だな)


 こっそり溜息を洩らす。

 その動作に反応した訳じゃないだろうが、背中の綾奈が身じろぎをする。

 良かった……無事に覚醒したか。

 安堵に思わず胸を撫で下ろす。

 回復呪文で応急的な対応はしておいたが、薬物によるものと思われる昏睡状態だったのだ。

 使われた薬物がどの程度のものか分からない為、下手に動かせず安静に様子を診るしかなかった(帰路に高速飛行呪文を使わなかったのでなく、使えなかった理由の一つだ)。

 俺程度の術者では怪我や単純骨折等の回復しかできない。

 こういう時、解毒のみならず状態異常や失われた四肢すら回復できる神官や司祭等の癒し手がいない事が悔やまれる。


「ううん……あれ?

 ここどこ?

 アル……君?」


 色っぽい声を洩らし覚醒する綾奈。

 どこか当惑した眼差しで周囲を見渡している。

 無理もあるまい。

 カラオケから直接拉致されたのだろう綾奈にとっては、ふと目覚めたら見知らぬ場所。

 おまけに俺の背中ときては、薬物も使用されずとも記憶が混濁し当惑する。


「確か飲み物飲んだら具合が悪くなって……

 外に出たとこまで記憶があるけど……」

「体調はどうだ?」

「え? 頭が少し痛い……かな?

 あと身体に力が入らない……」

「綾奈は昨日の奴等に薬物を使用され拉致されたんだ。

 今そいつらの魔の手から救出してきたとこ」

「えっ……?

 ええ!?

 ホント!?」

「嘘を言ってどうする。

 銃まで撃ってくるんだから、あいつらも本気だったんだろうな」


 夕食時における恭介との雑談で、平和な日本における銃使用のリスクを聞いた。 余談だが、空桶ならぬカラオケの件もちゃんと聞き、知った。


「そう……だったんだ。

 無茶、させちゃったね。

 ありがとう、アル君。助けてくれて」

「礼には及ばないさ。

 綾奈達には恩義がある。

 それに婦女子をかどわかすような輩を撃退するのは勇者の務めだ」

「フフ……何それ」

「それよりこちらこそすまなかったな、綾奈。

 まさか君が襲撃されるとは……

 危うく守りきれないとこだった」

「ううん。こうして救ってくれたんだもん。充分だよ」

「そうか。でも武藤翁達が心配しているだろうし……

 急いで戻るとしよう」


 俺は万難を排せず万全に至らぬ自分を恥じながらも、弛緩した綾奈を背中から降ろし抱きかかえる。

 いわゆるお姫様だっこというやつだ。


「ふえ? ア、アル君!?」

「黙ってろ。舌を噛むぞ」


 法印を結び高速飛行呪文を唱える。


「光翼飛翔<リアクターウイング>」


 光の翼をはためかせ宙に舞い上がる。

 翼より迸る強烈な推進力で残りの道程を強引に短縮する。


「ふあっ! あっ……あはは!!

 すごいすごい! アル君、天使みたい!」


 空を飛ぶという事態に、最初は身を竦ませた綾奈だったが、すぐに飛翔してる状況に慣れ、元気にはしゃいでいる。

 しかし天使か……いるとこにはいるのかもな。

 無邪気にはしゃぐ綾奈の笑顔を見下ろしつつ、

 俺は目の前の闇を見据えるのだった。








 謎を孕みし、答えが出ない疑問に煩悶しながら。

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