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196章 決戦に躊躇う勇者

 山が胎動したかと思った。

 大地を揺らす轟音。

 迫り来る圧倒的な質量。

 四方八方から押し寄せるそいつら。

 その正体は報告にあった天邪鬼の八指の顕現、八岐大蛇だ。

 終末の軍団18万を半壊させたその強さは図り知れない。

 現状として特に終末の軍団の動揺ぶりは深刻だ。

 一度襲撃を受けているというのもあるだろう。

 だがそれ故に刻まれたトラウマは容易には拭えないらしい。

 最早軍勢として行動する気概はなく、各々で勝手に逃走に移っては王都の精鋭達に蹂躙されていく。

 頼みの銃火器は使えず、数の力にも頼れない。

 どうやらこの場に集った人族の使命感が優った様だ。

 この戦いはもう俺達の勝利といってもいいだろう。

 ならば、次はあの巨大な禍津神らを何とかしなくてはならないのだが……


「行ってください、勇者様」


 轡を並べ共に戦っていた者達が俺達に次々と声を掛けてくる。


「この場は我等に任せて」

「頼みます、この世界の未来を!」

「あやつに対抗出来るのは貴方様達以外にいない!」


 熱い激励。

 確かに打ち合わせ通りならここで俺とミーヌは抜ける予定だった。

 けどあんな強大な禍津神を前に皆は無事でいられるのだろうか?

 最終決戦時の悪夢が脳裏に浮かぶ。

 最悪の事態を想定してしまい、躊躇いが出る。

 しかしそんな俺の肩を押してくれるのは、


「大丈夫ですよ、アル」

「恭介……」


 返り血と汗に塗れながらも優しく声を掛けてくる恭介だった。


「約束したでしょ?

 何があってもこの場は任せてほしい、と」

「でもあれは……」

「多少の事は自分が引き受けます。

 あれぐらいは想定内です。

 それに見て下さい。

 ちゃんと彼等は盟約を果たしてくれましたよ」

「見て、アル!」


 喜色の混じったミーヌの声を聞くまでもなく、俺も魅入られた様にその光景を見ていた。

 迫る八岐大蛇に対峙するかのように突如現れた6体の神秘的で巨大な生き物。

 ドラゴンとは似て非なるその者達。

 その名は龍と云った。


「竜神族……

 ついに動いてくれたのか?」

「はい。

 俗世には関与しない彼等も禍津神討伐となれば話は別です。

 彼等の本当の姿である龍の姿へ神性覚醒して戦ってくれるみたいです。

 これで6体は任せられます。

 あとは自分が1体、皆で1体ずつ受け持てば互角以上に戦える筈です」

「嘘、だな」

「ええ、嘘です」


 率直な俺の指摘に恭介は肩を竦める。


「どう頑張っても彼我の実力差は歴然。

 正直勝負になるのは自分と涼鈴、それに竜桔公主のみでしょう。

 そんな事は端から理解してます」

「なら……」

「本質を見誤ってはいけませんよ、アル。

 貴方達の役目はなんですか?」

「奴を……

 ヘルエヌ・アノーニュムスを討つ事」

「結構。

 あいつこそが全ての元凶。

 王であるあいつを詰ます事が出来れば全ては終わります。

 しかし神のごとき力を持つあいつに対応出来るのは貴方しかいないのです。

 貴方の念法でしか」

「ああ」

「皆は捨て駒になるんじゃないんです。

 何度も言いますが、未来を勝ち取る為に命を懸けてるんです。

 ならば役割は明確でしょう?」

「分かったよ、恭介。

 ――後を頼む」

「はい、任されました」

「ミーヌ、転移術式を!」

「もう少しで準備は完了だよ、アル。

 探知擬装用に数回経由するけど……終末の軍団が総崩れの今なら、ヘルエヌのいる本陣までは問題なく転移べそう」

「そっか。

 ならさっそく発動に入ってくれ」


 俺が逡巡してる間もミーヌは動くべく準備をしてくれていたらしい。

 さすがは、というべきか。

 揺れ動く俺の軟弱な意志とは違い目的をしっかり捉えている。

 転移座標を設定するのか、瞑想に入るミーヌ。

 集中を妨げない様、少し距離を置いた俺に恭介が話し掛けてくる。


「御武運を」

「恭介もな。

 決して無理はするなよ」

「貴方こそ――

 と言いたいですが、無理はしてしまうのでしょうね。

 でも貴方の懸念事項を一つ消してあげますよ」

「え?」

「アル、貴方はかつて大きな戦いで仲間を失ったのではありませんか?

 それが故にどうしても悲観的な思いから抜け出れない」

「……ああ」

「けど、そんな貴方の傍にはミーヌさんがいる。

 勝利の女神が傍にいるんです。

 絶対大丈夫ですよ」


 その勝利の女神様が相手だったんだけど(苦笑)。

 まあ、あの戦いで暗天蛇たるミィヌストゥールは滅びた。

 今の俺の傍にいるのは誰よりも大事なミーヌだ。

 こんな話、ミーヌには聞かせれないがな。

 人を慮る彼女の事だ。

 色々考えてしまうに違いないから。


「そうだな。恭介の言う通りだ。

 ただ……今の事、ミーヌには内密で頼む。

 あいつの過去にも関わる話なんでな」

「大丈夫ですよ。

 こんなクソ恥ずかしい話、アルにしか話せません」

「そういえばコノハとはどうなんだ、恭介は」

「今聞きますか、それを?

 まったく……

 ヘルエヌを斃して来たらたっぷり話してあげますよ」

「それは楽しみだな。

 じゃあ恭介のノロケを聞く為にもヘルエヌの奴をちゃちゃっと斃すか」


 これが目的という訳じゃなかったのだろう。

 ただ先程まであった悲壮な決意や使命感はなく、俺はかなりリラックスした精神状態でラストバトルに取り組める自分に気付いた。


「……転移座標設定完了。

 準備出来たよ、アル!」

「頼む、ミーヌ。

 じゃあ行ってくる!」

「頼みましたよ、二人とも!」

「お願いします、神担の勇者殿!!」


 激励をバックに、俺達はミーヌの魔術により転移するのだった。

 全ての元凶。

 この世界の根源を為す存在となったヘルエヌの下へと。


 

 


 GW連続更新♪

 ……嘘です(日付上はそう見えるど)。

 大変お待たせしてしまい申し訳ございません。

 あれから1年も経ていたのですね(遠い目)

 何とか今年中には完結させたいと思います。

 あと良ければですけど、アルの子孫のであるユナ達のシリーズも御覧下さい。

 この1年はそっちばかり執筆してましたので。

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