194章 好機に決意す勇者
超伝導とは特定の金属や化合物などの物質を非常に低い温度へ冷却した時、
電気抵抗が急激にゼロになる現象の事らしい。
以前の会議の際、ミーヌが銃火器に対する秘策として挙げたのはこの原理を利用したものだった。
数々の特性を持つ超伝導だが、今回はマイスター効果によって形成された臨界磁場により完全導電性を得る結界を張り巡らせたらしい。
とまあ、一応術式の説明は受けたのだが俺も詳しくは知らない。
なんでも電気抵抗がゼロとなるので、一度流れ始めた直流電流が電圧降下なしに永続するという効果みたいだが。
神々の助力の元、王都を囲う電離回路を地下に埋没。
その全てを超伝導体で構成すれば、流れ続ける電流によって永久電磁石となる。
コイル状の超伝導体回路に大電流を与えれば、他では得られないほど強力な磁場が得られる云々とか。
?マークを浮かべる俺に対し、ミーヌは様は銃弾を無効化出来るってことだよ、と苦笑した。
まあその為には莫大な演算能力を必要とする術者と魔力が必要だったが、幸い該当者が2名いた。
北と南、S極とN極を支えるかのような位置に構えたミーヌと明日香の術式により、戦域全体に特殊な魔力磁場が形成される。
それは金属類に激しく反応。
中でも鉛を利用した銃火器は誤作動を起し、辛うじて発射された銃弾も、銃口内で跳ね回り暴発。
あちらこちらで妖魔の悲鳴と苦悶の声が上がる。
無論こちら側の被害は皆無。
ミーヌの秘策を信じ、正式武装である剛鋼の鎧を止め、軽く柔軟であるが防御力に不安のある聖竹の鎧等を皆が選んでくれたからだ。
生命線である装備のランクを下げてまで俺達を信じてくれた。
その成果は最大限に発揮されている。
一方的な虐殺に慣れた恐ろしい程の膨大な妖魔達。
それが今や右往左往して混乱状態だ。
肝心の指揮官もこの事態にどう対応していいか分からない始末。
まさに最大の好機!
血気盛んだった士気がガタ落ちになってる今こそ畳み込む時だ。
「今だ! 開門せよ!!」
俺の怒声に応じ、堅く閉ざされていた城門が開く。
そこには完全武装で整列した王都の精鋭が集っていた。
防衛ラインに残した兵力を別とすれば、本当にこれが王都防衛の要。
最終戦力である。
俺達勇者隊を含めた精鋭が敗れた時、
王都の……世界の命運は決する。
緊張に歪む兵士達。
門前に再集結した勇者達も一緒だ。
だからこそ俺は発破を掛ける。
扇動者としての素質はないも、真実を叫ぶ。
「ついに時は来た!
この一戦こそがカムナガラの命運を決する!!」
俺の言葉に頷く一同。
揺れていた瞳に熱い何かが燈っていく。
「皆の双肩に世界があると知れ!
愛する人々を、
信じる未来を守る為……
全軍突撃!!
目の前の敵を蹂躙せよ!!」
「「「「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおう!!!!」」」」」」」
戦場に響く凄まじい怒号。
土煙を上げて突進していく精鋭達。
一条の矢のように解き放たれ、
無慈悲に敵を食い破り、
更に戦域を分散していき敵を追い詰める。
反撃する事すら忘れ逃げ惑う終末の軍団。
個人レベルで反撃しようとする強個体は俺達勇者隊が早期発見し対応していく。
無論無傷ではない。
昨晩酒を交わした者達が時に傷付き、時に倒れていく。
だが今際の際にその瞳に宿るのは絶望ではない。
皆が未来を守る事を確信した希望の光だ。
胸中を過ぎる苦々しい想いを強引に打ち捨て、
俺はただの戦士として戦いに臨むのだった。
いよいよ佳境です。