193章 逆境に抗いし勇者
魔戦。
戦場を形容するならばその一言に尽きた。
爆音と共に飛来する砲弾。
途切れない発砲。
蛮声を上げ突進してくる闇の軍勢。
対するは数多の奇跡(神名)をその身に宿した勇者達。
適切な援護を受けながら戦端を切り開いていく。
(正面から戦っては駄目だ)
近代戦闘の基本、戦力の集中化は絶対避けなくてはならない鉄則。
まして終わりが見えない戦いなら常に余力を残す事が必須。
幸いな事に神名の共有化で身体付与術式にスロットを割かなくともいい。
ならば自らの保身を優先しつつ時間を稼ぐのみ。
「ゆくぞ、ヴァリレウス!」
(おう!)
跳躍後の着地。
無防備な姿を晒す俺に向かい殺到する妖魔と銃弾。
しかしそれは間違いだ。
「残像だ」
「ギャウッ!?」
多重幻影を得られる神名の恩寵。
数秒だけ遅れて捉えられる俺の姿。
敵はまんまと騙される。
実際の俺はすでに小隊の右翼へと容易に潜り込んでいた。
反撃する挙動すら許さず、洸現刃を発動。
刃を伸長し、全体を斬り裂く。
瞬時に絶命する妖魔達。
だが俺はそれを確認するまでもなく次の目標へと駆ける。
韋駄天法の加護は凄まじく、まるで地面を滑る様な速さ。
既にこちらへと銃口を向けてる奴等の中央へ強引に潜り込む。
同士討ちが怖いのか右往左往する奴等。
やがて指揮官が非情な命令を通達。
味方ごと俺を掃射する事を決意。
五月雨の様な銃弾がすぐ傍を薙ぎ払っていく。
俺は手出しをせずより深く、より複雑に陣地へ。
大隊規模の注目を一身に浴びたところで無詠唱術式を解放。
眩い閃光呪文が周囲を照らす。
悲鳴を上げ転げまわる妖魔達の間を聖剣をかざし特攻。
今だ!
「ここだ、ヴァリレウス!」
(承知!)
俺の魔力付与を受け、聖剣の宝珠が演算を開始。
刹那の間もなく数百体の分霊が顕現。
以前にも述べたが、それらは元のヴァリレウスに比べ数百分の一の力しかない。
だが、その技量は別。
所持してるスキルも同様。
まして魔力や闘気を伴わない攻撃をほぼ無効化する幽体。
となれば後はワンサイド。
無慈悲なまでの一方的な攻勢が開始される。
戦況は優位に展開されていた。
そう、ここだけなら。
(頼む、早く……)
30分が永劫の時の様に長く感じる。
焦燥感が更なる焦りを呼ぶ。
何故ならこれほどの余力を割こうとも、俺は遠目に確認してしまってた。
僅かなミスから、数に圧倒され消えていく勇者達の姿を。
数万対100。
いつだって数は暴力であり絶対の力だ。
光の刃を振るい、盟友を助けにいく。
恭介も同様。
しかし途切れる事ない増援に雲霞のごとく覆われていく。
(ここまでか……)
俺が悲壮な思いと共に決意を決めた時、
(アル……)
脳裏に響くミーヌの念話。
ついにきたか!
「総員撤退!」
俺同様に念話を受け取った者達が瞬く間に後退。
城壁を背に城門の前に集結。
殺到する妖魔達。
指揮官達はこれが罠だとは理解していた。
されど数の力で食い破れると過信していたのだろう。
けどその判断は誤りだ。
「やってくれ、ミーヌ! 明日香!」
(了解!)
(うむ!)
戦域を両端に護衛と共に配置されていたミーヌと明日香。
共に複雑な術式を双碗に宿し開戦から詠唱を解放。
遂に天と地を対象に発動される儀典魔術。
その名も、
(超伝導――)
(――電磁結界!)
王城を中心に数キロ四方に奔る閃光と激震。
やがてそこには――
銃器銃弾を無効化され、当惑したまま狼狽し右往左往する妖魔達の姿があった。