191章 開戦に指揮る勇者
戦端を開いたのは王都を囲む様に並んだ戦車から放たれた砲弾だった。
轟音と共に空気を震わせ、爆発を齎す。
だが障壁を展開してる岐神は涼しげな顔だ。
塞の神である彼女にとって、全力で力を注げるこの状況はまだまだ余力があるらしい。
しかしこの音は民衆に恐怖をもたらし恐慌に駆り立てる。
武藤翁の忠告に従って戦闘員以外は避難させておいて良かった。
後顧の憂いを抱えたままでは到底戦い切れるものじゃない。
(さて、虎の子である戦車が通じないとなると……)
俺の思考を読んだ様に、今度はエンジンとプロペラ音を響かせ飛行船が来襲。
報告に挙げられてる焼夷弾を雨アラレと降り注ごうとするのだろう。
(でもバレバレじゃ意味がないんだよ)
俺は戦況観測室となった王城の尖塔から伝達系術者に送信。
すぐさま待機させていた航空戦力を解放。
思考転送のロスすら感じさせずに羽ばたいていくのは颯天を主体とする空戦可能な戦士達。
落下速度を付け加えた凄まじいチャージと共に、
特殊加工された槍が唸りをあげ、
更に先端部に火のエレメンタルを宿した弩級が飛行船に穴を開けていく。
地上殲滅を想定して空戦を想定しない飛行船ではロクな対戦装備もないと踏んだのが幸に出た。
時たま短機関銃を手に艦橋に出てくる妖魔がいるものの、すぐさま現場指揮者から指示が出て集中砲火。
優先的に排除されていく。
(この調子なら……いけるか?)
やがて内包するガスに引火したのか、大爆発と共に霧散する飛行船。
こちらの戦闘員も何人かは逃げ遅れ火傷を負ったようだが、死者は0。
彼我の戦力差を考えれば驚異的な戦果である。
けど向こうの指揮者も馬鹿ではない。
空を押さえられ、砲撃も役に立たないとなると……
「第一次防衛ラインに銃火器を持った敵が来襲!
凄まじい数です!!」
戦況版に記される外敵を表す赤い光点が瞬く間に増えていく。
それは味方を示す青い光点を呑み込みそうな勢いだった。
(そうだな。そうくるよな)
奴等<終末の軍団>の恐ろしさ。
確かに銃火器による殺傷力や残虐な性格なども脅威である。
だが一番怖いのはその数だ。
ある一定のラインを超えるまで、数の暴力はいつでも優位性を保つ。
犠牲を厭わない人海戦術というのは確かに有効なのだ。
「慌てるな!
打ち合わせ通りなら、そろそろ……」
パニックに陥りそうな情報官達を宥めようとした際、
戦場を劈く轟音が大気を斬り裂いていく。
確認するまでもなくそれは戦場に迸る数多の広域殲滅系魔術。
八咫の招き寄せた雷が、
源氏の放つ超音波の咆哮が、
竜桔公主が召喚する劫火が、
そして王都に集った数多の術者の放つ術が、
妖魔の軍勢を巻き込み、
燃やし、
切り刻み、
滅ぼしていく。
しかし亜神達の力を以てしても倒し切れないほどの数。
半数は削り切れただろうか?
やっと数の上では戦える数値となった。
しかしこれから先大規模な術師達の支援は受けれない事を覚悟しなくてはならないのは痛い。
特にこの場にはミーヌや明日香などの希代の術師はいないのだ。
予定された時間まで何とか膠着状態に持ち込むしかない。
「あとは任せたぞ。
もう少しで戦術に長けた八咫達がここにくる。
指揮権はすでに譲ってある」
「アルティア様は何処に?」
「決まってるだろう」
俺は聖剣を手に男臭い笑みを浮かべる。
「勇者が先陣を切らないで、誰が続くんだ?」
「流石は……神名担の勇者。
どうか、御武運を」
敬礼する士官達を背に、俺は慣性制御魔術を唱え塔の窓から身を投げ出す。
このカムナガラ史上最大規模にして、
最後の決戦がついに始まる事を実感しながら。