188章 意義に実感な勇者
斬る。
突く。
薙ぐ。
刺す。
穿つ。
避ける。
躱す。
いなす。
放つ。
練る。
絡める。
走る。
駆ける。
飛ぶ。
戦闘に関連する動作。
様々な判断を要するそれらを、反射を凌駕する無意識下で連携。
魔術による思考加速。
闘気による身体強化。
練法による技能構成。
気と魔力の収斂を併用し、更に最適化し統合。
視野に収まる外敵のみならず、剣士固有の間合い<圏界>を拡大。
攻勢に到る動向を事前に把握する事により迷いの無い攻防を行う。
記憶に残る父であり師であった人の面影を思いながら。
澱みと躊躇の無い一連の動作が脳裏に浮かぶ。
それはまさに戦闘芸術<バトルアスリート>の異名に値する人だった。
今の俺ではそんな父に及ぶ事は出来ない。
だが自らが為す事を為すという意志は負けないつもりだ。
依って俺が取るべき手法は不器用ながらも模倣から始まる。
剣技には剣技。
闘技には闘技。
魔術には魔術。
練気には練気。
この闘技場にいる者はいずれも一騎当千の武者達だ。
だからこそ素直に憧憬し、賞賛し、学んでいく。
俺では為し得なかったであろう技術体系を。
森妖精の弓手からは繊細な技法を。
有翼人の槍手からは豪快な練度を。
小妖精の剣士からは卓越な闘術を。
魔術師からは思いもよらぬ構成を。
聖騎士からは大いなる力の片鱗を。
他にも戦えば戦う程、経験は血となり肉となる。
……ああ、そうか。
そういう事だったのか。
首元を狙う血気盛んな草妖精の短刀を、皮一筋で回避しながら俺は思った。
最初は神々がこんな無茶ぶりを支持した理由がよく分からなかった。
ただの宴会芸的な悪ノリだろうと。
だがこうして戦うだけで実感できる。
凄まじい勢いで経験値が蓄積されていくのを。
実力が拮抗した者達による真剣試合。
切磋琢磨の末に生み出される修練。
これは並みの修行を遥かに超える効率性だ。
しかも怪我をすればすぐに神々が癒し、命の危険がある技は原則禁止。
本当に細かいところまで考えられてる。
間近に迫った終末の軍団との決戦。
その際にはここにいる者達が間違いなく主軸となる。
それ故にこのような無茶を強いてもレベルの底上げをしようと画策……
もとい配慮したのだろう。
俺には想定できないが、有り難い話だ。
大局を見据えたその采配はまさに世界を統べる神々の名に相応しい。
返す刀で草妖精の暗殺者コロリアを吹き飛ばしながら俺は感慨深く思索に耽るのだった。
「はい、只今のレートは勇者アルティア1・3倍。
勇者キョウスケが1・45倍になりま~す」
「さあ受け付けはあと3分です。
お早めにお願いしま~す」
「頑張れ勇者♪
まっけるな~」
「大穴狙っていけー!!」
「これで勝つる!」
……だから外野の野次も気にならない。
っていうか、賭け事してんじゃねえよ(涙)。