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185章 祝宴に願いし勇者

 宣言の後に待ち受けていたのは戦勝祈願懇談会とは名ばかりの宴だった。

 これがまあ、皆飲む呑む。

 湯水のごとく消費されていく酒。

 挨拶代りのエール。

 芳醇な香りのワイン。

 喉を焼く様な蒸留酒。

 すっきりした味わいの清酒。

 カムナガラ特有の少し濁った地酒など。

 あちらこちらで乾杯の音頭が上がり、その都度酒杯をぶつけ合う音が鳴り響く。

 目まぐるしく行き交う人々。

 そこに悲壮感はない。

 あるのは確固たる意志。

 明日を信じ、未来を切り開くという不断の決意だ。

 自己満足とはいえ、俺達のやった事に意味はあった。

 変わらず戦力差は絶望的だが……

 推測で一週間後に迫った決戦に向け、その士気は高い。

 これなら最後まで闘い抜ける事ができるだろう。

 安堵し胸を撫で下ろす俺の手を、そっとミーヌが握ってくれる。

 ホントにこいつは……

 俺が弱ってる時、

 揺れ動いてくれる時、

 常に付き添い支えてくれる。

 愛しい気持ちがどうにも押さえ切れず、躊躇いながらも強引に抱き締める。


「あ、アル……

 皆が見てるから……」

「分かってる」

「その……嬉しいけど、困る」

「いいから見せつけてやれ」

「もう……」


 我儘な子供を諌める様に苦笑し、俺の頬に口付けるミーヌ。

 途端様子を窺っていた人々が手を叩いて囃し立てる。


「流石は勇者殿!」

「そこに痺れる憧れますのぅ!」

「勝利の女神のキスは如何ですかな!」


 口々に叫び、騒がしい歓声が交わされ、ついには喧騒となる。

 押し並べて善良だが、どうにもノリが良過ぎる奴等が集ってる気がする。

 酩酊してる訳じゃないが宴に参加してる人々も実に様々で覚えきれない。

 順番に並んで挨拶をしに来る有力者や各部族の長達を紹介され、やっと解放されたと思えば今度は各地方の守護騎士に正規兵達の番である。

 中には美麗な森妖精エルフや屈強な岩妖精ドワーフ勇壮な翼人バードマンの戦士達もいた。

 皆陽気で愉快な輩が多く、せがまれる度に俺も酒杯を交わしていったが、面倒なので100を超えた辺りで数えるのを止める。

 俺の傍にいる皆の反応も実に様々だ。

 ミーヌは色白の肌を仄かに赤く染め笑顔で応じ、

 恭介は乞われるまま武勇を語り皆を勇気づけ、

 楓は所構わず腕試しを行い、

 明日香は奇行で皆を驚かせ、

 ムトー老は諭す様に訓戒を話し、

 岐神は穏やかに祝福を施し、

 颯天は戦に掛ける意気込みを宣言し、

 竜桔公主はその美貌で皆を唆し、

 涼鈴は意味不明な専門用語を叫び悶絶し、

 八咫は皮肉めいた口調とは裏腹に皆の身を真剣に案じ、

 ミズハはクールな容貌を台無しにするぐらいはしゃぎまくり、

 ヴァリレウスが大使としての責務を忘れ菓子塗れになり、

 コノハが歳相応の無邪気な面差しを覗かせ皆を労わる。

 喧喧囂囂、騒然たる有様である。

 だが嫌いじゃない。

 参加者はどこまでも笑顔で陽気に満ちている。

 身分や種族、禍根の境を感じさせない一体感。

 夢見がちに流れるこの憩いの一刻を俺は惜しんでいた。

 こんな時間がいつまでも続けばいいのに。

 けど不吉な予感も微かに過ぎる。

 人類の総力を以てあたる決戦。

 そう、まるであの戦いを連想する様な……

 って馬鹿な、何を言ってる。

 きっと俺の考え過ぎだろう。

 去来する既視感。

 苦い衝動を伴う想いを必死に押さえつけ、俺は変わらぬ笑顔で酒杯を重ねるのだった。


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