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183章 宮廷に決意す勇者

「神名担の勇者、カムナ・キョウスケ様。

 並びにアルティア・ノルン様。

 並びにミーヌ・フォンアインツベール様。

 共にご入室です!」


 入口に控える歩哨の呼び声が高らかに響き渡る。

 歓声と共に入口を封じる様に交叉された槍が開く。

 俺は恭介とミーヌを見る。

 力強く安心させる様に頷く恭介と、身を委ねる様に励まし頷くミーヌ。

 俺は二人の期待に応えるべく、覚悟を決め前を見定め歩み出す。

 途端、耳をつざく万雷の拍手が俺達を襲う。

 何事かと身構えた俺だったが、

 それは王宮会場に集った全ての人々の称賛だった。

 皆一様に俺達を見て褒め称える。

 通常とは違う待遇と囃し立てに対し理解が及ばす、流石に硬直する俺。

 そんな俺をさりげなく恭介とミーヌがフォロー。

 主賓席に強制的にリードされる。

 俺はまるで未熟な操者に操られたマリオネットのように、カクカクと応じる。

 皆の方を向き直されるといつの間にか控えてたメイドから酒杯を渡されていた。

 そのタイミングを計った訳ではないだろうが、竜桔公主とコノハ姫が共に俺達の両脇につく。

 ふと会場を見渡せば、多種多様な者達がいた。

 連日の疲れを知らぬように毅然と立つ王国騎士。

 宮中を警戒し見張りながらも身体に力が漲っている王国兵。 

 派手な魔力光と術式を放ち索敵と防諜を行う宮廷術師。 

 見慣れぬ装束を着込んだ異国の者。

 肌や髪の毛等、人種が違う者。

 礼節や信条など文化が違う者。

 果ては土着の神々や、

 異形の角や羽根などを生やした者達まで実に様々だ。

 だけどこの会場に渦巻くのは熱い想い。

 即ち、轟く様な戦意。

 理不尽に対する憤りにも似た感情の暴風。

 こうしてる間にもあちらこちらで拳を交わし合う者達がいる。

 どこか爛れた慣れ合いの宴を予期してた俺だったが……

 ここにきて、その認識を改めされられた。

 士気が只事でない。

 おそらく俺が扇動した決戦前夜の兵達にも似た雰囲気がそこにはあった。

 鋭い視線を感じ、そちらを見た俺は会場の片隅に一人の女性を見つける。

 傾国の美女もかくやと思わせる巫女装束の者……ヴァリレウスだった。

 これはお前がやったのか?

 目線で問う俺だったが、ヴァリレウスは苦笑すると念話で答える。


(半分は、な)

(半分?)

(そうじゃ。場と機会を設けたのは妾じゃ。

 しかし皆をその気にさせたのはこの国の王女と竜桔公主。

 そしてお主達だ、アルよ)

(俺達?)

(うむ。

 ヘルエヌがもたらした絶望、終末の軍団。

 天邪鬼がもたらした脅威、ダイダラボッチ・煙羅煙羅。

 これらに屈せず跳ね除けてみせた、お主達の人としての強さ。

 それがここにいる人々を結びつけておる。

 強制された訳ではない。

 煽られた訳ではない。

 ただ自らが望むままにここに在る。

 妾達神々の同族すらそれを受け入れておる。

 正直理解し難いと感じる衝動よのう)

(それは……)

(だが、それでいいのじゃよ)

(え?)

(理論や理屈だけでは自分を詐称し切れまい?

 偶には感情や想いに身を委ねるのも一興)

(……いいのか、それで)

(気持ち良く闘う為の儀式。

 汝達もそう心得ておる筈じゃ)

(だけど! 皆の命が掛かってるのに!!)

(以前もお主の仲間が言った筈じゃぞ。

 進んで死に逝く馬鹿はいない。

 犠牲の果てに生み出される価値。

 そこに未来があるからこそ、人は戦う事が出来るのだと。

 アルよ……

 お主とてそれは分かっておるのじゃろ?)

(ああ)

(ならば全てのお膳立ては揃った。

 お主のやる事は唯一つじゃ)


 念話を打ち切るヴァリレウス。

 何を言いたいのか分かる。

 けど……いいのか?

 仮想世界とはいえ、現実世界を侵食したここカムナガラは現実と同じ。

 俺の判断で人を死地に追いやっても……

 苦悩する俺。

 その俺の腕をそっと抱きかかえる人物。

 見るまでもない。

 いつも俺の傍にいて支えてくれる、愛しい人。

 病める時も苦しい時も俺に安らぎを与えてくれる……

 掛け替えのない大事な人。

 その温もりを間近で感じ、俺の肚は決まった。

 ならばやってやる!

 例え担がれた神輿でも。

 それで誰かが救われるなら、

 俺は道化でも勇者でも演じ切って魅せる!!

 灼熱の様な想いを抱え、

 俺は竜桔公主とコノハ姫が話を切り出すのを待つのだった。 




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