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181章 幻聴に妄想な竜姫

「そんなに驚く事はあるまい。

 妾達の一族に加わるのが不満か?」

「いえ、そうではなく」


 驚愕に声を上げる俺に、竜桔公主が怪訝そうに声を掛けてくる。

 救いを求める様にミーヌを見ると、事態の推移に目を見開いていた。

 ありゃ、駄目だ。

 現状把握で精いっぱいで脳の理解が追い付いてない。

 孤立無援を再度自覚し直すと竜桔公主に向き合う。

 期待に満ちた眼差しで俺を見詰める竜桔公主。

 俺は溜息をつきながら返答する。

 話が数行くらいぶっ飛んでる。

 何から切り出せばいいのやら……


「正直話がいきなり過ぎて。

 大体、何で俺なんです?

 他にも候補者はいっぱいいたんじゃないですか?」

「妾達竜神族は優れた血を求める。

 お主はあの強大な禍津神を討伐したのじゃ。

 我が一族に迎えたいと思うのは当然の結論じゃろ」

「あれは殆どヴァリレウスの力で、俺自身は何も……」

「謙遜するでない。

 確かにお主だけの力ではないじゃろ。

 だが普通はヴァリレウス殿の助力があっても、絶望に心が折れる。

 妾が注目してるのはその心の在り方じゃ。

 夜明けのごとき希望の兆し。

 光明の勇者の名は伊達では無い」

「買いかぶり過ぎです」

「それに……」

「え?」

「お主、まだ隠し玉を持っておるじゃろ?

 しかもとびっきりの。

 岐神から聞いたぞ。

 ザオウ解放の一幕を」

「それは……」


 念法の事までバレてるのか。

 力不足を理由に断るのは難しくなったな。


「今なら次期当主の相方の座も付随してくるぞ。

 更に蓬莱の宝物はお主のものとなる」

「いや、おっしゃることは分かりますが……」

「ん? 娘に不満か?

 涼鈴は妾に似て器量よしじゃぞ。

 あっちの方もかなりの……」

「お母様!」


 悲鳴にも似た声が上がり、救護室のドアが開く。

 慌てた様に入室してきたのは目も覚めるような美女だった。

 流麗な髪留めで前髪を止め、美しい顔を露わにしてる。

 儚さの中にも芸術作品のような確固たる主張。

 幻想的な荘厳さえ漂わすその容貌に俺は思わず息を呑む。

 誰だ、この人。

 会議の場にはいなかったような……


「おお、涼鈴!

 どうしたのじゃ?」


 って、涼鈴かい!

 思わずツッコミそうになる。

 俺の知る彼女はいつも長い髪で俯き顔を伏せていた。

 髪を整え顔を出すだけでこんなにも印象が変わるものなのか。

 確かにそういう目線で見れば竜桔公主の面影が見える。

 こんなに綺麗だったとは……

 殊更驚いてる俺だったが、二人は親子で何やら言い合ってる。


「恥ずかしいからもうやめて!」

「何故じゃ?

 お主も言っておったではないか?

 神名担の勇者なら良い、と」

「それはカップリング的な意味合いで……」

「? よく分からんのじゃが」

「もう! お母様、いい加減にして!!

 アルティア様も迷惑でしょう?

 それに……彼には心に決めた人……

 そう、運命の相手がいます」

「そうなのか?

 婚儀も意識しておる、と」

「ええ、まあ」


 俺は横目でミーヌを見やる。

 顔を赤らめるも嬉しそうに微笑むミーヌ。

 頷き返し、そっと指先を絡める。

 流石は竜桔公主の娘。

 一目で俺達の関係を見抜いてくれたらしい。

 だから小声で聞こえる。


「……婚礼に突入する恭介様……

 報われない想いに駆け落ちする二人……

 うふ、うふふふふ……」


 等と妄想を呟き悦に入る涼鈴の声は幻聴なのだろう、きっと。

 そういうことにしておいて下さい、マジで。

 俺は涼鈴の熱い目線を完全に無視して竜桔公主に断りを告げる。


「という訳で、大変名誉ではありますが辞退させていただきます」

「ん~残念じゃ。

 お主なら、と思ったのじゃが」

「恐悦至極ですがね」

「まあよい。

 それだけが訪問の理由ではないしの」

「?」

「コノハに頼まれた。

 あの騒ぎの後、各国だけでなく様々な者達が王都に集結しておる。

 もう一度顔合わせじゃ。

 決戦に向け備えるぞ、勇者よ」


 先程までのおちゃらけた雰囲気はどこへ行ったのか?

 急に真剣な趣きになった竜桔公主は歴戦の将軍のように俺に宣言するのだった。



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