180章 突然に誘いし竜姫
「睦み事の最中であったか?
すまんの……人族の発情期の周期がよく分からないものでな。
せっかくの逢瀬を邪魔をしたようじゃ」
「いえ、その……
大丈夫です、はい」
竜桔公主の明け透けな指摘にミーヌは可哀想なくらい赤面してる。
俺自身も多少の動揺があったが、まあ恋人同士。
たまにこういうハプニングがあるのは仕方ないと思う。
カイルの話だと、マイナスの因果作用は何故かイチャイチャすると発動してしまうらしい。
うまくいきそうな時に邪魔が入るのは鉄板なのだろう。
キスの直前に何故か妖魔に襲われたり、
結ばれる直前、何故か家族や仲間が脈絡もなく乱入してきたり、と。
それに比べれば俺達はまだ幸せな方だろう。
若干顔の温度が上がるのは仕方ない。
ミーヌやヴァリレウスとはまた違う絶世の美女に情事の後を見られたのだ。
特殊な性癖がないかぎり恥ずかしい。
内面を誤魔化す訳じゃないが、手早くセットによりお茶を用意し、
テーブルに腰掛けた竜桔公主へ勧める。
竜桔公主はセットに驚いている様だったが興味深げに杯を傾ける。
「ほう……優しい味じゃな。
これを煎れた者の心が浮き出てる」
少し驚いた様に褒め称える竜桔公主。
俺も我が事のように嬉しくなる。
お茶を煎れてくれたのはアーヤだ。
ヤクサ滞在中は沢山御馳走になったが、セットの事を知ったアーヤが道中も飲めるようにとポットと器ごと持たせてくれたのだ。
「知り合いが煎れてくれたお茶です。
お気に召しましたか?」
「うむ。妾達の宮廷にも専属の者がいるが……
その者に勝るとも劣らない味を醸し出しておる。
機会があれば宮廷に召上げたいものよ」
本当に楽しそうに笑う竜桔公主。
氷の様に無表情だった会議中の様子を思い出し、俺は不思議に思う。
美女が微笑むのは魅力的だが、あまりにもキャラクターが違う。
「あの、竜桔公主様……」
「何じゃ、勇者よ」
「此度の突然の訪問、いったいどのような御用件なんですか?」
「おお、そうじゃった。
この美味いお茶を楽しむことにかまけてすっかり失念してたわ」
苦笑し、杯を置く竜桔公主。
居住まいを正すと、俺を悪戯めいた瞳で見詰める。
女性がこのような視線を向けて来た時は要注意だ。
大概はかなりの確率で厄介事に巻き込まれる。
「なあ、神名担の勇者……
いや、アルティア・ノルンよ」
「はい」
「竜神の一族になる気はないか?」
「……は?」
「じゃから……娘の婿になる気はないかと問うておる」
「はああああああああああああああああああああああ!!!???」
竜桔公主による突然の誘い。
俺は自制が外れ大声を出しながら確実に厄介事に巻き込まれた事を自覚した。