179章 無粋に乱入な竜姫
「連合が結成された!?」
「うん」
互いを求め合う熱い情熱の一時後、少々乱れたシーツを気にしながら俺はミーヌに尋ねた質問への返答を聞き驚いた。
寝物語に訊くのも野暮かと思ったが、やはり気になったのだ。
強大な火力を持つ終末の軍団相手には皆が結成するしか方法が無い。
だがそんな思惑だけで手を取り合えないのが人族だ。
滅びを前にしても利権や感情、そして宗教や信条で擦れ違う。
先の大戦で俺はそんな事例を間近で見て来たから断言できる。
一番厄介なのは恐怖。
何かに抱く恐れには、それを上回る意志の方向性が必要となるからだ。
あの大臣達が反乱を目論んだのもどこか理解できる。
彼らは昨日の無慈悲な戦場で思い知ったのだ。
自らの命の軽さ……というか、存在する意味の無さを。
本来は戦士だけでなく、戦いに身を置く者が最初に克服しなくてはならない掟なのだが。
引き金一つで散って逝く命に心が折れ、魂が萎縮してしまった。
もう理不尽さと相対したくない。
そこを付け込まれ、あの強大な禍津神に唆されたのだろう。
「諸国会議の結果、やっとみんなは目覚めたっていうか、危機意識を持ったの。
名代たる王女の下、現在このゼンダインには各地から精鋭が集っている。
水面下で動いたヴァリレウスの根回しもあるしね」
「そっか……ならば勝ち目があるな。
会議に参加してくれた人達には礼を言わないとな」
しみじみと言った俺の言葉に、腕枕をしてるミーヌが呆れた視線を送ってくる。
あれ?
俺は今何か変なことを言ったか?
「あの~ミーヌさん?」
「呆れた。一番の立役者が何を言ってるの?」
「うえ?」
「確かに間近に迫った軍団による圧力もあったと思う。
でも一番皆を駆り立てたのは……
会場で姿を現した禍津神に対し、とある者が見せた断然たる態度。
絶対的戦力差を物ともせず、
絶望に抗う希望の光。
アルの戦う姿に皆は惹かれたんだよ?」
「え? お、俺?」
「そうだよ。あの後大変だったんだから。
この神名担の勇者の名は!?
アルティア・ノルン……貴方はいったい……
私が介抱します! リア充共は下がって!
ボクも気になんな~ちょっとお話し聞かせてや
な~んてアルを囲んで、てんやわんやだったし、
気難しそうな竜桔公主すら、
アルを気に入った、妾達も参戦しようぞ、とか騒ぎ立ててたんだから。
……何とかマークを引き剥がし、無事だった本城の救護所へと強引に引っ張ってきたけど」
「そ、そうか……苦労を掛けたな」
「まったくです。
だからアルには私に優しくする義務があるんです」
「そうだな。反論はないぞ」
「うん、よろしい」
「それで?」
「え?」
「その義務に従おう。
ミーヌは……じゃあ、俺にどうして欲しい?」
「そ、それは……」
「それは?」
「そのう……」
「そのう?」
「い、いじわる!」
「さて、何の事だが分からないな」
「こ、この人は時折無駄に意地悪さんになります!」
「そりゃま、誰よりも好きな人だからさ」
「……ズルイ。
何も言えません」
「確かにズルイな。
でも、紛れもない事実だ」
「それならば私だって……好き、だよ」
「ミーヌ……」
「アル……」
唇が再度互いを求めて重なり合う、まさにその時、
ガチャ コンコン
「お~い、勇者よ。
そろそろ目覚める時間じゃ、ぞ……と。
取り込み中であったか。
これは失礼した。続きをするがいい」
完全に扉を開けてからノックした気がするのだが、
あと一歩のとこで乱入してきた竜桔公主によって甘い雰囲気は完璧に払拭されてしまう。
……っていうか、無理ですから!
そんな簡単に雰囲気は戻りませんし、誰かに見慣れながらなんてハイレベル過ぎてマスター出来ませんから!(涙)
俺達は急ぎ身支度を整えると、おそらく話をしにきた竜桔公主を迎え入れるのだった。