17章 電話に講じる勇者
「はい、もしもし」
「あ、恭介か?」
「その声はアルですね。
……散策の方は如何です?」
「お蔭様で順調だ」
「それは何より」
「この国は物資に溢れ、見所が多過ぎる。参ったよ」
「お気に召されたようですね」
「ああ、永住したくなる奴等の気持ちが理解できる」
「アルさえ良ければいつまでも滞在して下さい」
「気持ちは有り難く受け取っておく。
……さて本題だが、実は先程、昨日武藤翁を襲っていた奴等に襲撃を受けた」
「!! 大丈夫なのですか!?」
「ああ、難無く撃退できたから問題は無い」
「ならいいのですが……無茶はなさらないでください」
「ああ、気をつける。
しかし懸念すべきは奴等が武藤翁宅の門に張り付いていたという事だ」
「知ってます」
「ん? そうなのか?」
「ええ、それらしい影が監視カメラに映っていましたから。
組長にも朝から腕利きが護衛に付いてます」
「それならいいが……奴等銃を所持していた。
恭介も身辺に気をつけろよ」
「御忠告痛み入ります」
「まあ恭介程の腕前なら、銃による不意打ちがなければ捌き切れるだろうがな」
「何の事でしょう?」
「韜晦すんなよ。恭介は武道の達人だろ?
分かるぜ、足捌きや呼吸など諸々で」
「……アルは怖い人ですね。
皆、自分の外見に騙されてくれるのに」
「優雅な獣ほど荒ぶる本能をその身に隠すもんだよ」
「そんな大層なものじゃないですがね」
「どうかな? 時間があれば今度手合せを頼む」
「お手柔らかに」
「こちらこそ。
あと、その他奴等の正体に繋がりそうな情報を手に入れた」
「もしかして講談組ですか?」
「ああ、知っていたのか?」
「可能性として考慮してましたが……
どうやら本格的に敵対するようですね」
「詳しい事情は知らないが、ヤバイ状況らしいな。
それに付け加えて思案すべき事として、今さっき綾奈から連絡が合ってな」
「綾奈嬢から? 何と?」
「今日はカラオケとやらに行くから遅くなると聞いたんだが……大丈夫か?」
「一応ウチの若いのに裏から交代で護衛に付かせてますから」
「そうか。もし俺の腕が入用なら声を掛けてくれ。
人道に恥じない行為なら幾らでも手を貸す」
「恩に着ます」
「それと恭介、一つ質問いいか?」
「何でしょう?」
「カラオケって何だ?
空の桶で何かするのか?」
「……どうも貴方は基本的な常識が抜けている気がしますね(はぁ)。
帰って来られたら実物を交え御説明しますよ」
「すまん。ありがとう」
「いえいえ。そろそろ夕飯になりますし、早くお戻り下さい」
「恭介……美味しい御飯って素晴らしいよな?」
「どうしたんです?
そんなあらぬ方を見つめながら悟ったような口調は」
「いや、ちょっとトラウマを刺激されただけだ。
……すぐ戻る。全力で戻る」
「はいはい。では、後程」
「ああ、武藤翁によろしく」
俺は携帯を仕舞うと、紙袋の山を苦心して持ち上げ、帰宅の途に就いた。