176章 報告に固まる一同
ギリギリのタイミングであった。
ヴァリレウスの助力を受けたアルが崩壊点を貫くと同時、
煙羅煙羅は霧散し消滅。
端末とはいえ恐るべき力を振るう存在は無に還った。
討伐と共に大爆発の可能性もあるのがこの禍津神の怖い所だったが、極滅の神眼を宿したアルの敵ではなかったのだ。
完勝ともいえる攻防。
しかしその実情はまさに瀬戸際。
一見すると強大に思えるこの神綬励起だが、デメリットも多い。
まず絶えず変動する線と点を正確になぞるだけの技量が必要とされる。
常に蠢くそれらを狙うのは至難の業だ。
さらに対象となるものの崩壊の概念を理解できるかが重要となる。
暗天蛇との最終決戦時、アルは女王が纏う影の纏いを突破できなかった。
平面二次元である影というもの、その終わりが理解できなかったからだ。
念法を使い強引に地力を引き上げ応戦するも、魔城に置ける女王は真神に匹敵する力を持つ。
打ち倒す事が出来たのは女王の油断もあるが僥倖に過ぎない。
そして何より一番の理由は、顕現者に掛かる負担の高さ。
視界に映し出される存在限界点、滅びへの寿命を見続けるだけで頭蓋が割れる様な軋みを上げる。
生来の神眼の持ち主ではないアルにとって、別理論で形骸されるその視界は理解しがたい異界の情景。
脳の処理能力を大きく逸脱した事による反動が、凄まじい消耗を引き起こす。
結果、アルは昏倒した。
同時に、辛うじて世界を形成していた固有結界も砕け散り現実に復帰する。
そこにはボロボロの身体を術法で回復させている会議参加者達がいた。
亜神とはいえ神々が全力で守備に回ったにも関わらず打ち倒す程の衝撃。
衝撃無効・即死回避などの神名の守護を持つ恭介はともかく、アルが無事だったのは全力でアルを守りにいったミーヌの活躍が大きい。
他の者を守りきれないと瞬時に判断したミーヌは、状況を打破できるアルに賭けたのだ。
自らだけでなく他者の命運をも託す信頼関係。
アルとミーヌの絆に禍津神は敗北したともいえる。
依って、皆に見えたのはアルが聖剣を突き出す姿。
そして灰燼となり消えゆく禍津神。
驚愕に立ち竦む一同。
特に世界の守護者である亜神達の驚きは大きい。
(アレを打ち倒すというのか?)
(ありえへんことを起こすのが起こすのが勇者とはいえ、まあ)
(神名担……アルティア・ノルンとは一体……)
だが声を掛けアルへ駆け寄る恭介と竜桔公主にふと我に返る。
聖剣を振るったその姿勢のまま、アルは倒れてゆく。
「アルティア!」
「アルティア殿!?」
「アル!?」
一同から緩衝呪文や回復術法が飛ぶ。
ミーヌによって地面へ倒れ伏す前に抱えられたアル。
だがこれほどの術者達が力を費やしているというのにアルは一向に回復しない。
顔面は蒼白。
小刻みに震える身体は氷の様に冷たい。
ミーヌは唇を噛み締める。
自身も完全な回復に及ばないというのに、アルへ治癒の魔力を注ぎ込む。
献身的なその姿に、周囲の者達も何も言えなかった。
しかしそこに、
「伝令~~~!
伝令でございます!!」
なりふり構わず駆け込んできた兵士が大声を掛ける。
顔を見合わせる一同。
一同を代表して、君主名代でありホストであるコノハが窘める様に声を掛ける。
「何事です?
今は皆様を招いての会議中でしたのよ?」
「申し訳ございません。
しかし緊急事態でございます!!」
「どうしたのです?」
「国境に展開しつつある終末の軍団ですが」
「ええ。まさか、即時侵攻したのですか!?」
「いえ……」
「ならばなんですの?」
「それが……」
「早くおっしゃいなさい」
「はっ! 決して虚言でなく裏付けもすんでおりますが……
終末の軍団18万は……
半壊致しました!
八つの首を持つ強大な大蛇によって!!」
「「「「なっ!!」」」
伝令の報告に固まる一同。
その意味が理解出来ない。
銃器により武装され、更には異界の戦車や空飛ぶ箱舟を操る終末の軍団が半壊?
いったいどうやって?
これが後に王国最悪の襲撃者となる天邪鬼の八指の顕現、八岐大蛇の初登場であった。