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175章 神眼に侵せし勇者

 始まりがあれば終わりがある様に、万物はその内に、いつの日か訪れる崩壊への因子を秘める。

 厳密には崩壊というより物質の寿命、

 発生した瞬間に定められた存在限界点とでもいうべきもの。

 つまりあらゆるモノが持つ「存在の寿命」という概念である。


 極滅の神眼はそれを形のある滅びの線……

 あるいは滅びの点として視認・捉えることが出来る。

 万物の滅びは存在を認識したモノの表面に浮き彫りにされる。

 が、概念でしかないため滅びの線そのものに強度は無い。

 これを断ち切られたり突かれると、意味的な寿命を切られたことで存在的な消去が行われていく。

 即ち存在の意味そのものが停止し、滅びに至る。

 神々の持つ事象改変より上位の意味消失に近い。


 滅びの線とはモノの崩壊し易い部分。

 これが断ち切られると、切られた部分は停止=死亡し、

 結果的に材質・性質・強度を問わず線がはしっていた部分は小規模崩壊・切断される。

 滅びの点はモノの死=寿命そのもの。

 これが突かれると、その点が現していたモノの意味が停止し、完全崩壊する。



 神銘解放との違いはここにあった。

 聖剣たるシィルウィンゼアの本質は退魔封滅。

 その特性も属性強化に特化している。

 神銘解放とは聖剣を最大限有効に扱う為の呼び水なのだ。

 担い手は武具を振るう歯車に過ぎない。



 一方、神綬励起とは何か?

 これは神担武具に宿りし神々の身体的神性をその身に宿すことである。

 ヴァリレウスならば極滅の神眼。

 剣皇姫は持って生まれた心眼を鍛え上げることで、万物が秘める滅びを視る術を得た。

 果ては因果や概念という無形のものすらも「滅ぼす」までに到った。

 よって彼女の振るいし剣技は容易に滅びを招く。

 そう、物質的な防御など意味を為さない。

 何故なら彼女は万物の寿命とでもいうべき崩壊点を断ち切るからだ。

 人間である俺には到底認識できない内容。

 存在としての容量差が駆け離れ過ぎている。

 そんな俺が一時的にでも恩恵を受ける事ができるのが神綬励起である。

 担い手として深い信頼関係を形成した者となら、宝珠の紡ぎ出す演算式と同調することにより世界観を共有できる。

 通常は神銘解放時にしか視えないそれが、俺も視ることが可能となるのだ。

 これは再生力や強大な力を持つ存在への大きなアドヴァンテージになる。

 念法とは違う観点からのアプローチ。

 力の質を向上させ霊的奇跡を可能とする念法に対し、ヴァリレウスの神眼は物理に関係なく意味的な崩壊を招くということであるため、生物に限らず、物質や概念や空間や魂などの非生物や物理的に壊せない・壊しにくい事象すら滅びに至らせることが可能であるという事が大きな利点である。

 本来ならヴァリレウス自身が神眼を以って戦闘に望めればいいのだろう。

 だがアストラル体に近い彼女がマテリアル化するのは容易ではない。

 担い手たる俺の補助があっても長時間は難しく、まして神眼を顕現させ続けるのは大きな負担だ。

 よって神担武具が認める真の絆で結ばれた担い手が代行者となるのがベストではないにしてもベターな対応となる。



 眼を開けた先、虹色の双眸を放つ線が淡く視界に入る。

 これがヴァリレウスの視てる世界。

 何と頼りなく曖昧な世界なのか。

 世界すべてがあやふやで脆い。

 地面なんて無いに等しいし、空なんて今にも落ちてきそう。

 一秒先にも世界すべてが滅んでしまいそうな錯覚。

 狂気に陥らないのはヴァリレウスが共に在るからだ。

 脳髄に奔る頭痛と眩暈を堪え奴を視る。

 身体を再構成させた煙羅煙羅に干将・莫耶を手にした竜桔公主が斬り掛かる。

 優雅な舞を連想させるその太刀筋とは裏腹に、一撃ごとに奴の存在が揺らめく。


「くっ……舐めるな!」


 応戦しようとした煙羅煙羅だったが、神名を連続使用した恭介が強引に割って入り防御・離脱。

 だけでなく、その場に足止めする。

 流石は恭介。

 いぶし銀の働きをしてくれる。

 無論その隙を逃す俺ではない。

 白濁しそうな痛みを無視。

 気と魔力の収斂を発動。

 洸現刃を纏った聖剣を最速で叩きこむ。

 奴が動く度に蠢いている、核のような部分に。

 アレこそが奴の崩壊点。

 存在としての終局!


「なっ―――!」


 何かを言おうとした煙羅煙羅。

 だが全ては遅きに辞した。

 正確に奴の点を突いた聖剣。

 次の瞬間、強大な力を持つ禍津神は灰燼となり霧散した。

 あまりにも呆気ない最後。

 しかしこれこそが神眼の真骨頂。

 存在上位の格上すら必滅する絶対の死。


「理解したか、禍津神?

 ――――教えてやる。

 これが、万物を滅ぼすっていうことだ」


 いい加減限界を超えた苦痛に気を失い掛けながら、俺は呟く。

 驕った奴の高慢さが無ければ勝利には繋がらなかった。

 力に任せ、ただ体力を削るだけで本当なら俺達は敗れていたからだ。

 暴発の可能性がある為、こちらから積極的に物理攻撃は出来ない。

 弄ろうと遊んだ奴の児戯が全ての敗因であった。


「アル! 大丈夫ですか!?」

「しっかりせぬか、神名担の勇者よ」


 駆け寄ってくる恭介と竜桔公主が何かを叫んでるのは分かる。

 けど答えようとした俺の思惑を裏切り、まるでブレーカーが落ちるように俺の意識はそこで断絶された。







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