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174章 覚醒に宿りし勇者

 昨夜のサクヤとの会見中、宝珠から具現化したヴァリレウスだったが、聖剣へと戻らずいつのまにか姿をくらませていた。 

 神造過程を経た神担武具とはいえ、その主たる神々の本質がなくてはただの有能な武器に過ぎない。

 今までも何度かこういうことがあった為、そこまで疑問視しなかったというのもある。

 大方甘いモノに心奪われてるかと勝手に納得していた俺だったが、今朝方サクヤに聞かされた真相は違った。

 何とヴァリレウスは昨日の戦いに危機意識を持ったサクヤの名代として、各諸族や土着の神々に交渉に向かったらしい。

 ヴァリレウスは数時間程度とはいえ、自らの分霊を幾つも生み出すことが出来る技を持つ。

 確か最大100近い数まで実体を持った分霊を瞬時に展開できた筈である。

 その実力は本人と同等なのでかなりチートくさいと思ったことがあった。

 無論弱点もあり、分霊を生み出す度に力が等分されていってしまうらしい。

 つまり分霊一体目で50%、2体目で25%のような感じ。

 最終的に100体まで分かれたら100分の1である。

 雑魚狩りにはいいのかもしれないが実力が拮抗した相手には効かない技だ。

 本人も使いでのない技なのじゃ、と苦笑していたが。

 だが物は考えようである。

 確かに力は等分されていく。

 しかしその意志力や判断力、交渉力は別である。

 個別に宿った力や魅力にその衰えは見られないのだ。

 ヴァリレウスはああ見えてかなりネゴシエートが巧い。

 戦闘馬鹿では戦いを生き抜けないというのもあるが、相手の挙動を先読みし、常に最善を以って動くという闘争者としての在り方が交渉事でも有用となるからだ。

 常に交渉相手の動向を窺い、

 何を相手が考え、

 そしてどうすればいいのかを瞬時に導き出す。 

 まして驕らない竹を割ったような性格で絶世の美女である。

 同性すらも魅了するその巧みな話術には正直舌を巻くくらいだ。

 そんなヴァリレウス故、サクヤの名代で参戦を促していく交渉人には最適だ。

 後はサクヤの力を以って各有力者まで転移させてればいい。

 その際に主神としての一報があれば有力者たちも無碍にはできない。

 実際交渉に入ればヴァリレウスは敵なし。

 かなり有力なコンボであろう。


「まあ思ったより手こずったのじゃがな。

 神々より人族の方が難儀させられたわ」

「道理を通せばいい亜神達とは違い、人間は様々な思惑があるからな」

「でも最終的には、どの者達も終末の軍勢に対抗しなくてはならぬという事を理解してくれた。

 後は妾の交渉でいかに陣営に引き込むかに掛かったのじゃが」

「得意だろ、そういうの」

「そうじゃな。それに各勢力で持て成しを受けたのも幸いじゃった。

 アルにも見せたかったぞ」

「そうなのか?」

「ああ、山のような甘味三昧。

 特に竜桔公主殿のところは凄かった。

 池がまるごと杏仁豆腐になっておってな。

 妾が泳ぎながら食べても減らないのじゃ!」

「貴女は……何という」


 嬉々として杏仁豆腐の池を泳ぐヴァリレウスの姿が思い浮かぶ。

 俺は稚気に溢れたその姿を幻視し、痛み出したこめかみを押さえた。


「何じゃ、その顔は。

 安心せい。先方も妾に破顔してくれたぞ。

 素晴らしい持て成しでした。

 心より感謝致す、竜桔公主殿」

「ふふ……喜んで頂けたなら幸いじゃ。

 ヴァリレウス殿は竜神族に対しその力を示した。

 俗世には関わらぬ我等とて、同族の実力者には敬意を払う。

 そなたが受けたのは相応の対価じゃ」

「いやいや、あのような極楽を受けれるとは流石は崑崙というべきか。

 妾も竜神族の一員に加わりたいくらいじゃ」

「おやおや。ヴァリレウス殿が望むならいつでも歓迎致すぞ」

「またまた。世辞が上手だから」

「結構本気なのじゃが」

「ふふ」

「はは」


 ……何か知らんが打ち解けている。

 気難しく難儀な竜桔公主を相手にここまでするのだから大したものだ。


「さてこれを返すぞ」

「かたじけない」


 談笑したヴァリレウスは両手の宝剣を飛ばす。

 綺麗な放物線を描いた双刃は、スポッと竜桔公主の手に収まった。

 今は娘が使っているとはいえ、本来の持ち主は竜桔公主その人である。

 竜桔公主が軽く握り力を籠めるだけで双刃が震える。


目覚ウエイクアップめよ、干将・莫耶」


 囁いたその言葉に、宝剣が劇的に応じる。

 剣先が伸び短剣から長剣に変じるだけでなく竜闘気を纏い内から放つ神気を増大させていく。


「ふむ。第二段階解放完了。

 久々だがうまくいったようじゃのう」


 満足げに微笑む竜桔公主。

 干将・莫耶を手にしてから戦闘力の向上が目に見えて分かる。

 あれこそが彼女本来のスタイルなのだろう。


「さて、アルよ。

 悠長にしている暇はないようじゃ」

「ああ」


 こうして喋っている間も固有結界は罅割れていき、世界に亀裂が奔る。

 拡散した煙羅煙羅も既に元の形に戻り動向を窺い始めた。


(奴の本質は火の元素を持った邪気。

 迂闊に手を出せば大爆発をおこす。

 いうなれば生きた火薬庫なのじゃ。

 それゆえ竜桔公主殿も思い切った手段を取れなかったのじゃろう。

 この王都ごと吹き飛ぶやもしれぬし)


 傍らにきたヴァリレウスが俺の手に触れながら念話で囁く。


(なるほどな。

 あれだけの力を持つのに撤退を促していたのはそれが大きな理由か)

(取っ付き難そうに見えるが、竜桔公主殿は意外と可愛いのじゃぞ。

 竜神族の掟とやらに縛られてはいるがな)

(意外。浮世離れというか、俗世には興味が無いのだと思った)

(昨夜なんぞ娘の惚気話を朝まで聞かされたのじゃぞ。

 ああ見えてかなりの子煩悩だしのう)

(それはまた……)

(まあそれが理由で気に入られたのいうのもあるがな。

 そこまで彼女に壁なく付き合った存在はいなかったらしい。

 何だか知らぬが友扱いされた)

(ああ……何となく分かる)


 立場というのもあるが隔絶した容貌を持つ竜桔公主。

 周囲の者達もそんな彼女に対し畏れは抱いても親しみは抱けなかったに違いない。

 誰が相手でも臆しない、無防備なまでにあっけらかんとしたヴァリレウスだからこそ竜桔公主は逆に嬉しかったのかもしれない。


(さてあだしごとはさておき、現実じゃな。

 今現在のこいつを倒しても本質的な意味での滅びには繋がらぬ)

(操り人は別にいるからか)

(そうじゃな。アマノサクガミ……天邪鬼か。

 強大な力を持つ厄介な相手じゃな、まったく。

 じゃが奴は奇妙なルールを自らに強いておる)

(? それは?)

(どうやら直接自らは動かないようじゃな。

 配下や分霊を向かわすことはあっても。

 陰謀を画策し、踊る者達を見るのが愉快というか愉悦なのじゃろうよ。

 そこに付け入る隙がある)

(というと)

(本体に気取られぬよう一撃で斃すのじゃ。

 媒介たる分霊がいなくては本体も干渉はできぬ)

(分かった。つまり念法だな)

(阿呆! アレほど使うなと咲夜殿に指摘されたじゃろ!)

(じゃ、じゃあ神銘解放?)

(ド阿呆! もっと悪いわ!!

 汝の命をすり減らしてどうする?

 それにまだ鎮静期間中じゃ)

(じゃあどうすれば……)

(神綬励起を使う)

(!! いけるのか?)

(今の妾と汝ならいけるじゃろ……不本意ながらな)

(そ、そんなこと言うなよ)

(ふん。この女泣かせめ……失敗したら本気で怒るぞ)

(ま、まあ任せておけって!)

(ホントじゃな? 約束したからの)

(ああ、ではいくぞ!)

(うむ)


 俺はヴァリレウスの言葉に彼女の胸へゆっくりと手を差し伸べる。


「ん……」


 恍惚に声を上げるヴァリレウス。

 俺は嬌声を無視し、閉眼しながら更に意志を研ぎ澄ませ突き入れる。

 物理的抵抗を跳ね除け、ヴァリレウスの奥底へ沈んでいく俺の手。

 辿り着いた先、彼女の核たる意志を感じ同調していく。


「我は汝。

 汝は我。

 我等ついに真実の絆を得たり。


 真実の絆……それ即ち、真実の目なり。

 今こそ、共に見ゆるべし。

 神担武具究極の力、聖剣シィルウィンゼアの本質が内に目覚めんことを!」


 虹色の爆光がヴァリレウスから立ち昇り一点に凝縮。

 刹那の間の後、俺の手に宿りし聖剣の宝珠にヴァリレウスが宿る。

 ゼア(魔)をシィル(封ずる)ウィン(勝利の剣)。

 ゆっくり開眼した俺の視界には、無数の線が視えていた。

 これこそヴァリレウスの視えている世界。

 すなわち存在崩壊の線、極滅の神眼の顕現だった。


 申し訳ございません。

 他シリーズの更新と間違ってしまいました。

 改めて更新し直します。

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