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172章 愚弄に怒りし竜神

「これがこの世界最高峰の力の持ち主達とはな……

 カムナガラも質が落ちたものだ」


 倒れ伏す者達を見下し、呆れた様に呟く天邪鬼。

 サガラの身体を乗っ取ったか化けてるかは不明だが、

 その渋い容姿が嫌味に拍車を掛けている。

 一方、その言葉を聞いた俺と恭介は絶望的戦力差に震えそうになる身体を気力で支え、剣と拳とを構える。

 だがどうすればいい?

 この戦力差を埋めるには禁忌の御業しかない。

 けど俺の見立てが確かなら、あいつが今使ったのは……


「随分とレアな業を使うのじゃな」


 扇で口元を覆いながら竜桔公主は面白そうに天邪鬼へ尋ねた。

 天邪鬼も無傷の竜桔公主に興味を持った様に尋ね返す。


「ほう……我の使いし業を知ってるのか?」

「念、じゃろ?

 妾は使えぬものの、一族の中には数人程使い手がおる」


 そう、竜桔公主の指摘通り。

 天邪鬼が今ほど使って見せたのは間違いなく念法。

 いや、力の上昇率は念法に及ばないものの、

 もっと安定した技術であり、危険度の少ない業のようだった。

 我流に近い俺の念法に対し、あれはいうなれば正統派の体系に組み込まれてる。

 ただ……救いは念を霊的向上を伴わない技でのみ扱ってるという事だろう。

 フィルターを掛けない念は物理的な側面で収まる。

 まあその物理的力ですら恐ろしいほどの威力を持つのだが。

 今しがた天邪鬼がやってみせたのは、圧縮した念をただ無造作に弾けさせただけのもの。

 何の意図もない念の解放だ。

 だというのにこの成果である。

 単純物理な力だというのに、亜神達ですら薙ぎ倒すほどの力。

 敵性存在が使う事により、念の恐ろしさを改めて俺は思い知る。

 しかし……どうする、俺。

 ただでさえ基本となるスペックが駆け離れてるというのに。

 この上、念による能力上昇があるなら、まともに戦うことは不可能だ。

 この場で対抗できそうなのは俺か神名を解放した恭介、

 あるいは……


「大層なものじゃが目を見張るものではないな。

 素晴らしい業も同じものを拝見しては飽きるというものよ」

「なるほど……それゆえに対抗できたか。

 流石は竜神族というべきだろうな。

 それでどうする、竜桔公主よ。

 我を止めるかね?

 邪魔をせぬというのなら見逃してやるが」

「見逃す? 阿呆が」


 酷薄で凄惨な笑みを浮かべた竜桔公主が苛立つように扇を閉じる。

 壊滅した広場に大きな音が響き渡る。

 意識がない倒れ伏した者達の身体すら怒気に当てられビクッ! と震える。

 こ、こええええええええええええええ!!

 美人が怒るとマジで洒落にならない。 

 俺はミーヌを本気で怒らせない事を内心で再度誓い直すのだった。


「誰に向かって口を聞いておるのじゃ。

 貴様の前に立つ妾は竜神族の次期後継者なのじゃぞ」

「ではやるかね?」

「俗世に関わらぬというのが妾達のスタンスじゃ。

 されど貴様の有り様は少々おイタが過ぎるな。

 妾が直々に灸を据えてやろう。

 ……涼鈴!!」

「はい、お母様!」


 上衣を脱ぎ身軽な服装になった竜桔公主が涼鈴に声を掛ける。

 応じた涼鈴は慌てた様に答えながら閉眼。

 何かを呟きながら莫大な気を周囲に展開し始める。

 陰鬱に響く詠唱に耳を傾けると、


「体は妄想で出来ている


 受けは鉄板で

 攻めは定番


 幾たびの設定を越えて不足

 ただ一度の反省もなく

 ただ一度の満足もなし


 担い手はここに一人

 山無しの丘でオチ無しの妄想に耽る


 ならば、この衝動に意味は不要ず


 この体は、無限の妄想で出来ていた」


 ……うん、なんだ。

 意味はよく分からないが聞かなかった方が良かったものだと思った。

 しかしその言葉にどれ程の意味が込められていたのか、効果は劇的だった。

 突如眩いばかりの輝きをあげた退魔の宝剣が、周囲を黒と白に染め上げる。

 思わず目を閉ざす俺。

 そして異様な光に目を開けると、そこは……


「ほう……固有結界か。

 なかなか面白いものを見せてくれる」

「ここなら邪魔は入らぬじゃろ。

 意識がない者達は省かせた。

 他の者を巻き込んでは寝覚めが悪いしのう」

「構わん。何ならそこの勇者やお前の娘も参戦させてもよいぞ」

「ふっ……ぬかせ」


 互いに戦闘体勢に入る二人。

 まあシリアスな展開だが……違和感はないのか?


「アル……ここはアレですか?

 術者の心象風景を投影するという」

「ああ、そうだな……かなりアレだが」


 俺と恭介は互いに見やり、そっと溜息を零す。

 何故ならそこは桃色の原生風景。

 淡いピンクの空には謎のシンボルマークが絡み合い、

 広大な空間には様々な書物が落ちている。

 ちらりと覗く挿絵から推察するに、アレは決して見てはならないものだ。

 そこに一人佇み閉眼妄想し、愉悦に耽るのは涼鈴。

 この別空間は青葉城に突撃した時にも似ている。

 多分噂に聞く固有結界なのだろうが……

 初体験がコレなのは正直どうよ?

 確かにここなら誰かを巻き込むこともなく存分に戦えるだろうが。

 こんな雰囲気を意に介さないとこが超一流の在り方なのか?

 俺には絶対到達できない域だな……ホント。

 まあ戯言はさておき現実である。

 俺と恭介は萎えそうになる気力を強引に振り絞り、様子を窺う。

 実力が拮抗してるのか静止し動かない二人。

 だが先に仕掛けたのは天邪鬼の方だった。

 足元で念を爆発させ、凄まじい推進力を確保。

 一条の弾丸となしその手刀を竜桔公主に突き入れる。


「「竜桔公主(殿)!!」」


 思わず声を掛ける俺と恭介。

 だが当の本人は、


「ほう……それが竜神族に伝わる」

「そう。竜闘気ドラゴニックオーラという。

 貴様の念とはまた違う力。

 妾を倒すのは容易くないぞ、禍津神」


 物騒な笑みを浮かべた竜桔公主はその手刀を受け止めていた。

 念とは違う黄金色に輝く闘気をその身に纏って。

 竜の圧倒的な気を以って邪神・鬼神をも滅する竜闘気。

 その力は天邪鬼の扱う念と均衡している。

 再度離れるや凄まじい連打を放つ天邪鬼。

 連打を全て見切り、双掌でいなす竜桔公主。 

 美麗なる魔人達の激闘が、今開始された。


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