171章 無粋に興醒な禍神
「やあああああああああああああ!!」
天邪鬼……奴が名乗りを上げたと同時に、涼鈴が裂帛の声を伴い斬り込む。
双掌にて輝きを放つのは、退魔の宝剣と謳われし干将・莫耶という夫婦剣。
熟達の域に達した俺の動体視力でも捉えきれないほどの斬撃。
まさに閃光といっても差し支えない美しい輝線が宙に帯を引く。
カムナガラでも最高位を持つという腕前は伊達では無いらしい。
あれ程の腕前ならば対峙者は気付いた時に崩れ落ちる自らの身体を見るだろう。
刎ね飛ばされた自らの首に驚きながら。
無論神々とて静観していた訳ではない。
先程まで自らの力を封じていた停滞の宝珠の力はすでにない。
ならば呆ける間もなく自らの力を以って使命を遵守する。
即ち、世界に歪みを齎す禍津神の排除。
まさに神速といってもいい程の速度で編み込まれる神威という名の力。
岐神が不可視の障壁を用いた戒檻の神威を。
八咫が茨の樹草を用いた束縛の神威を。
源氏が咆哮を用いた衝撃の神威を。
刹那の間にも満たない時間に只一人、
否一柱に向けられる!
だがその全てが、
「戯言だな」
興醒めした口調で呟く天邪鬼が放った燐光によって防がれた。
驚愕する涼鈴と神々。
不思議な輝きをあげる燐光。
それは天邪鬼の身体に纏わりつき、虹色の煌めきを放つ。
既視感に脳が警鐘を鳴らす。
どこかで見た様な風景。
俺は思い当たる最悪の事態に恭介を伴い全力で後退。
その予想が外れていることを祈りながら皆に避難を促す。
「この程度で止められるとでも思ったのか?」
呆れた様に呟き、輝きを燈した指を打ち鳴らす天邪鬼。
次の瞬間、広間のあるこの空間に爆発的な波動の捻りが駆け巡る。
苦悶を押さえ周囲の者達をかき集める。
光鎖の障壁を最大威力で発動。
網目を抜けて襲いくる暴風に足を持って行かれそうになるが、アゾートによって堪える。
今はこれが俺に出来る精一杯。
やがて捩れは終焉を迎え、轟音と閃光とを放つ。
視界を焼く眩さに咄嗟に目を庇う。
焦点の合わない視界を瞬かせ強引に回復。
そこに映る景色に思わず絶句する。
「なっ……」
「なん……だと……」
あまりの事態に茫然と呟く俺と恭介。
こうなった展開を想定し、ミーヌと楓には全力で防御術式を編む様に打ち合わせていた。
俺も恭介も咄嗟に術式や神名を重ねて使用した。
明日香ほどの術者や神々すら守りに力を注いだのを見た。
だというのに!
「おやおや……どうした。
お前達の力はそんなものか?」
からかいを上げる天邪鬼。
まったく消耗してないその仕草に震えが止まらない。
何故なら、
「だが無理もない。
セーブしたとはいえ、少し力を出し過ぎたか」
何故なら王城の離れにあった会議室のある離宮は奴の放った力によって全壊し、
俺と恭介、そして美しい額から血を流す涼鈴と無傷の竜桔公主以外の面々は、
致命的ではないも神々すら打ちのめされ地に伏していた。