168章 弾劾に解説す大臣
「神封じたる停滞の宝珠かい……
まさか現存するとは、な」
苦悶に顔を歪めながら八咫は吐き捨てる様に呟く。
その呟きを聞き止めたのか、外務大臣という肩書を持っていたタジマは面白がる様に追及する。
「おや、御存知だったのですかな?」
「知らいでか。
遥か昔に神を呪った術師が作成した最悪の宝具や。
確かに破壊した筈やのに……
またしょーこりもなく造り出す、ド阿呆がいるとはな」
「最悪とは随分な御言葉ですね。
これほど使いがての良いものはないというのに」
「お前……それが造られる過程を知ってて、それを言うんか?」
「ええ、勿論ですとも。
これは神を呪う怨嗟と命で造られる。
人を苦しめ、
虐待し、
ありとあらゆる責め苦の末に生み出されたもの。
嘆きを圧縮した、負の極致とでもいうべき品です」
「知っててそれか。
随分と狂っとるな、お前も周りの奴等も」
「褒め言葉ですな」
「次は自分という考えには至らないんか?」
「まあ覚悟はしてますよ。
でも提示された権威は魅力でしょう?」
「そんな……そんなことで!!」
「だからといって同胞を裏切って良い理由にはならんはずだろ」
八咫同様、身動きも取れぬほどの全身の苦痛に耐えながら岐神と源氏が続く。
その言葉にへらへらとした笑みを浮かべていたタジマの顔が急に無表情になる。
「……貴方がたはあの戦力差を知らないからそんな綺麗事を言えるのですよ。
コノハ様に取り入るべく共に戦陣に出た私は思い知りました。
あの、無慈悲とでもいうべき暴虐を。
何も出来ない無力さを。
神々には分からないでしょうな。
引き金一つで消えてしまう命の脆弱さなど。
人は儚く、そして弱い。
私がここでこんな事をしてるのは何も権力に目が眩んだだけではない。
ただ、ただ恐ろしいのです。
ここにいる者達も皆一緒です。
もう恐怖と敵対したくないのですよ」
「恐怖に負けたのか。
絶望に屈したのか」
「どちらでも構いませんよ。
貴方がたが何を言おうと、今となっては負け犬の遠吠えと一緒ですからな。
何せこの宝珠が輝く空間ではありとあらゆる神の力は発動できません。
それだけに留まらず、所持する者を外的要因から守護し、
更に神の血脈に連なる存在や、それに近しい者をも瞬時に苦痛で束縛する効果を持つ。
人族もその限りではない。
しかも素晴らしい事に任意の者を外すことが出来る。
まさに至宝の品たるもの。
あの方から授かったこの宝珠の力には、守護者たる貴方がたも為す術がないようですね。
いや、竜神族の方々は別でしょうが……
関与はされないのでしょう?」
「無論。人族や俗世の争いに興味はない」
「ふふ……最高の返答ですね。
ほら、これで貴方がたは反抗する術を持たない。
故に詰みの一手、チェックメイトですな。
……勝った。
そう、我々の勝ちなのだ!
さあ兵士達よ、皆を縛り上げろ!!」
愉悦に肩を揺らし勝利宣言をするタジマ。
故に気付かなかった。
何故神々が苦痛を堪えてまで自慢話に付き合っていたのか?
それは全て、
「どうしたお前達!?
何故動かぬ!?」
当惑したように尋ねるタジマ。
その瞬間気付いた。
兵士達の身体に潜り込み、身体の自由を奪うばかりか神経系に直接刺激を与え
極限の痛みによる気絶と覚醒の末に白目を向かせてるものを。
それは一人の青年の両掌から生まれ出ている極細の光る糸。
光を放たねば到底視認できぬような糸が兵士達の自由を奪っているのだ。
(何なのだ、これは?
先程まで策は完璧であった筈。
何故こんなことになっている?
大体なんなのだ、こいつは)
拙い記憶を総動員し照会。
確か昨日突如空から現れ参戦してきた神名担の勇者。
名は確か……
「光束縛糸<リストレイトバインド>による
極糸秘技<マリオネット>。
王都一の闇糸使い直伝の技だ。
そう簡単には解けないと思った方がいいぜ」
光明の勇者アルティア・ノルン!
下賤な者の一人!
それより何故動ける!?
どうして術式を発動できる!?
予想外の事態に驚愕するタジマ。
そんなタジマに対し、アルは惚れ惚れするような男臭い笑みを浮かべ対峙するのだった。