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167章 下劣に勝誇る背者

(八咫様。会議が荒れるって……こういう事ですか?)

(アホゆうな。こないな事態想定できるか)

(ですよね)

(でもまあ、正直がっかりしたけどな)

(といいますと?)

(このアホ共にもコノハちゃんにも)

(辛辣ですね)

(だってそうやろ? この場にはボクらがいる。

 この状況とて神威を用いれば何とでもなる。

 けどこれ、他の場所なら詰みの一手やで?

 仮にも一国の名代ともあろうものが未然に対応できへんようでは

 正常な国務の運営など到底行えんやろ。

 権力闘争もさることながら、権力者にとって一番大事なんは

 自分が殺されんいうことなんやからな。

 厳しい意見かもしれんけど、そこは重要なとこやろ)

(ま、そうですね。

 ……無能なトップの下につく国民程、憐れな存在はないでしょうから)

(ミズハも結構言うやないか)

(昔色々ありましたので)

(そういえばそうやったな。

 しかしここはまあ様子見させてもらおうか。

 コノハちゃんのお手並みと対応を)


 会議参列者に向け銃口を向ける兵士達を面白がる様に、されど限りなく冷たい目線で見詰めながら八咫はミズハと心話を交わす。

 他の者達も似たような態度だ。

 感情的になる訳でもなくあくまで冷静に対応している。

 無論中には、


「こ、これはどういうことだ!?

 わ、儂の部下はどこにおる! であえ~であえ~!!」


 と事態を把握出来ずに騒ぎ立てる将軍や、


「き、聞いておりませんぞ!?」

「打ち合わせと違うではないですか!

 何ですかこの輩は!?」


 何か齟齬があったのか困惑する大臣達もいる。

 そんな中で内側から迸る憤りを抑え込みながらクールであろうとする者がいた。

 コノハ・イシュタル・ゼンダイン。

 この会議の主催者にて面子を見事なまでに潰されし者。

 他国の重鎮が来ているのにその警護を行えず、あげくクーデターに巻き込むなど前代未聞の不祥事である。

 だが彼女が激昂しそうなのはそこではない。

 コノハは赦せなかった。

 人族の存亡の掛かったこの会議にそんな俗物的なものを持ち込んだ輩達が。

 だから内心は魔力全開で何もかも無茶苦茶にしてやりたい衝動が畝っている。

 けどホストとして、そして王女としての聡明さが最後の一線を踏みとどまらせていた。


「再度尋ねますわね。

 これは……どういうことですの?」

「だから見れば分かるでしょう。

 貴女の下ではやっていけないと私は判断した。

 この者達も同様です。

 昨日の戦で私達は自らの無力さを知った。

 故にクーデターを起こしたのですよ。

 貴女がたを無力化すれば終末の軍団は容易にこの世界の制覇に乗り出せる。

 その暁には私達に然るべき地位と財産を約束してくれた。

 麗しき姫君を裏切るのは心苦しいですが、これも戦時の常。

 どうかご理解頂きたい」


 手を戦慄かせて尋ねるコノハにおどけた様に慇懃無礼な一礼を返す大臣。

 そして用件は終えたとばかり指を鳴らし指示を出し始める。


「よし、拘束しろ。

 な~に、抵抗するようなら見せしめに手足に銃弾をぶち込んでも構わん」


 銃を構えた兵士達が無表情に頷き、参加者を拘束しようと動き始める。

 その時、事態を静観していた三柱の神々がついに動き出す。


「残念ですけれど」

「そいつは少々」

「無謀ってなもんやろ?」


 岐神が術式を使うまでもなく展開した不可視の障壁で兵士達の動きが止まり、源氏が発動した威圧の波動により各々自己消失に陥り、八咫が招来した蔦花によって抵抗する間もなくなくその身を拘束される。

 この瞬間まさに1秒弱。

 予め打ち合わせしたわけではないのに刹那にも近い早業であった。


「これはこれは神々の方々。

 人族の争いには手を出さないのがお約束なのではないですかな?」

「お黙りなさい!

 わたくしとて権力の行く末などに興味はありません。

 されど正なる道理に適っているかは必然。

 それを乱そうとする貴方達こそ身の程を知りなさい!」

「刃を向ける覚悟がお前達にあるのか?

 人に……そして俺達神々に刃を向けるなら相応の覚悟をしろ」

「まあ流れは良かったけど詰めが甘いっちゅか。

 こないなもん、脅威にならんし」


 三者三様の返答に肩を竦める大臣。

 その態度に岐神達は違和感を覚えた。

 この場全体に発動している自分達の力である<神威>。

 間違いなく発動はしている。

 なのに……何故、この男は動ける!?

 該当する案件。

 誰よりも早く至った八咫は全力でその男を束縛しようと手印を刻む。

 が、間に合わなかった。

 おもむろにその男が出した宝珠が、場を……否、世界を改変する!


「きゃああああああ!!」

「ぐっ!!」

「なん……やと!?」


 宝珠が妖しく輝くや空間を不思議な色彩で染め上げる。

 途端、岐神達はまるで電流が流されたかのように硬直し、

 力の行使が行えなくなるのをその身で知った。

 涼しい顔をしてるのは規格外の力を保持する故か、

 事態の推移を変わらぬ冷めた目で見る竜桔公主とその娘である涼鈴。

 人族にカテゴリーされるものの強大な力を持つコノハやミーヌ、明日香

 までもが苦悶に身を歪めている。


「私が神々の力を持つ者達に対し、何も対策をしてこないと思いましたか?

 この宝珠は彼の方より賜わりし秘宝。

 貴方がたの様な下賤な者達の自由を奪う偉大なる御力が秘められてるのですよ」


 たるんだ顎を震わせ、終末の軍団と交渉するだけでなく邪神に心をも売り渡した

 ゼンダインの大臣だった男は、昏い愉悦に醜く顔を歪ませながらも勝ち誇るのだった。



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