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165章 流血に塗れる狩神

「北方地域イーセキの守護者、源氏様御来場です!!」


 歩哨の呼び出し声に応じ入口を見た者は皆一様に驚いた。

 そこにいたのは体中に巻きつけた包帯だらけの男。

 まだ乾ききってない流血が生々しい。

 もとは毅然とした意志を窺わせる容貌は今現在虚ろなものへと変容している。

 20半ばと思わしき年齢から一気に老け込んだ気すら感じさせる。

 彼こそ狩猟神である源氏であった。

 放牧地帯イーセキの守護者。

 神の威光を以って人々に恩寵と安らぎをもたらす存在。

 ……だった、ものである。

 終末の軍団の最初の標的にされたイーセキ。

 大した軍も備えもないイーセキは暴虐と凌辱の限りを尽くされた。

 生存し他地方へ逃れ得たのは人口の5分の1程。

 源氏が戦線に立ち人々を護り戦ったとはいえ、残りの5分の4、

 つまり8000人近くは還らぬ人となったのだ。

 その事実が源氏の心を苛んでいた。

 今も心ここに非ずといった足取りでコノハの前に歩み寄り、一礼をする。


「主たる幻朧姫様の招集と俺自身の願いにより馳せんじさせてもらった」

「こ、此度は遠方よりおいでいただきましてありがとうございます。

 まずお怪我の手当てを」

「いらん」

「え?」

「必要ない。これは……これからも増え続ける」

「それはどういう……? あっ!!」


 疑問を投じたコノハの前で突如源氏の頬が裂け、血が迸る。

 何者かの攻撃かと驚く一同だったが、源氏は意にも介さず手を挙げ諌める。


「気にするな」

「し、しかしそれは」

「これは……罰だ」

「罰?」

「ああ。人々を護れなかった俺の罪といってもいい」

「……どういうことですか?」

「今もイーセキには多くの者が終末の軍団に捕らわれている」

「ええ、存じております」

「奴等はただ殺すのではない。

 人を……虐待し、弄ぶのだ」

「!!」

「すぐに殺める訳ではない。

 心と体と尊厳を冒しつくす」

「まさか源氏様!?」

「よってその傷と痛みだけでも俺が半分肩代わりできる術法を民に施した。

 全てを肩代わり出来ないのが悔やまれる。

 自己の管理の為に痛みは必要らしいからな」

「それでは今現在も……?」

「ああ。捕らわれし1379人の憑代となっている」

「何と痛ましき事でしょうか……」

「なあ王都の姫よ」

「はい」

「こうしている間も人々の慟哭と嘆きが俺には聞こえる。

 敗残の身たる俺が言うのはお門違いかもしれない。

 だが言わせてくれ」

「はい」

「勝て。

 悲劇を連鎖させるな。

 もし負ければ王国どころかカムナガラ全てが怨嗟に満ちる。

 皆の尊厳の為にも俺達は戦って勝たねばならない。

 ここに来たのもそれを忠告しに来たかったからだ。

 護れなかった俺だが、恥を忍んで尋ねる。

 どうか真摯に答えてくれ。

 ……やれるか?」

「皆の意向は知りません。

 けどわたくしは……戦います!

 人々を……罪なき者達の明日を護りたいです!」

「……いい返事だ。

 それならば貴女に賭けてみてもいいだろう。

 元イーセキの守護者源氏、会議に参加させていただく」


 深々と一礼し、自らの席に腰掛ける源氏。

 声もなく挙動を見守る人々。

 だがこれにて役者は揃った。


「皆様お揃いですわね?

 それでは名代ではございますが、わたくしコノハ・イシュタル・ゼンダインの名の下、守護者の方々を交えた諸国会議をこれより開始致します!!」


 様々な憶測と思惑が渦巻く混沌たる坩堝の中、 

 ついにカムナガラの明日を担う会議が始まった。




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