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162章 密談に嗜みし勇者

「颯天やヴァリレウス様から伺いましたわ。

 何でも王都防衛に尽力為されたとか。

 異界の武具を操る軍勢相手に見事です」

「いえ、俺達はたまたま見識があっただけです。

 あの異界の武具『銃器』は初見ではまず防げません。

 クロスボウにも似た機構になってますが……

 鑑定スキルによるアナライズやうろ覚えな異界の知識によると、

 その本質は火のエレメンタルを活用して鉛の弾丸を射出するもの。

 威力もさることながらその速射性は脅威に値します」

「成程……颯天から聞いてはいましたが、

 状況は芳しくありませんね」

「ええ。正直小火器を所持した妖魔一匹相手に騎士小隊で互角でしょう。

 幾人もの犠牲を伴いながら」

「そうですか……」

「まあ現状では、の話ですが」

「え?」

「こちらのミーヌに秘策があるそうですよ。な?」

「はい。秘策というか対策なんですけど」

「なんですの?」

「実は……(ごにょごにょ)」

「まあ。確かにそれならいけるかもしれません」

「大丈夫でしょうか?」

「ええ、わたくしも微力ながらお手伝い致しますし、可能でしょう。

 問題は……」

「はい。銃器を無力化しても数の暴力に打ち勝てるか否か。

 サクヤの得た情報によると……

 奴等<終末の軍勢>は様々な勢力を統合して拡大の一途を辿ってるらしいです。

 戦力差は各個人の武勇と集団攻勢力を考慮しても28対1。

 王都で堰き止めるにも正面切っての戦闘は難しいと言わざるをえません」

「ですわね……でもサクヤ様の話では、貴方に名案があるとか?」

「名案も何もありません。

 尊い犠牲の末に何が得られるか捨て身の覚悟ですよ」

「フフ……過大に期待されるのも困りものですわね」

「まったくです」

「でもそれが勇者たるものの務め。

 頑張って下さいね。

 ……え、颯天?

 ああ、今話すの?」

「ええ。申し訳ございません。

 少々良いか、二人とも?」

「お~颯天。昨日振り」

「連続飛翔・転移で疲れはない?」

「大丈夫だ。汝らが気遣いしてくれたからな。

 ただ気兼ねしてることがあり、是非謝罪したいという自戒がある」

「? なんだ、それは?」

「共に……戦えなくてすまなかった。

 王都を襲い掛かる妖魔の軍勢。

 本来なら吾こそが真っ先に立ち向かわなくてはならないのに。

 あの時の吾は、動転してたとはいえ汝らを放置し岐神様の元へ馳せんじた。

 これは偽りなき恥ずべき行為だ」

「……苦渋し苦悩てるところ申し訳ないが。

 それは違うぞ、颯天」

「……え?」

「あの時確かに俺がお前に頼んだんだ。

 お前はそれに報いてくれたに過ぎない」

「し、しかし……」

「そう、アルの言う通り。

 あの時に何より優先すべきは王都で起きてる詳細な情報の伝達。

 私達もサクヤ様から伺ったわ。

 自分を顧みない貴方の最速連続転移のお蔭で、

 岐神様の結界強化が間に合ったのでしょう?

 貴方の活躍がなければ、無辜の民の尊い命が散っていたのよ?」

「だな。ヘルエヌの奴は各地にも兵を派遣してたというし。

 強化された結界で何とか封じれたんだから。

 水際で喰い止められたのはマジで珠玉の活躍だぞ。

 それにな」

「?」

「常に最前線で戦うだけが戦士の仕事じゃない。

 情報を収取し、

 持ち帰り、

 伝達し、

 危機を事前に回避する。

 皆の生存力を向上するのも戦士の大事な仕事だ。

 颯天は為すべきことをした、ただそれだけだろ」

「客人……」

「ほらね、言ったではありませんか。

 この二人は貴方の事を嘲笑う者ではないと。

 うわべだけでなく、ちゃんと物事の本質を理解してくれてるんですよ」

「岐神様……言葉になりません。

 吾は……吾は幸せな奴です」

「よかったですわね」

「はい! なあ客人よ!」

「は、はい!?」

「空を駆けし吾と我が神足が一族。

 此度の戦、間違いなく力の限りを尽くそう」

「それは頼もしいな!」

「それは儂らも一緒ですぞ、アルティア殿」

「ムトー老……こんなとこにまでいらっしゃるんですからね。

 正直驚きましたよ」

「ホッホッホ。

 歓迎の宴に参加せず颯爽と去って行った勇者達に一言言いたくての」

「うう……すみません」

「ごめんなさい」

「いやいや。王都の危機に間に合ったのですから、結果的には最良でしょう。

 ただ、ヤクサの村のみならずナトゥリの者達は御二人から受けた御恩を忘れた訳ではないですぞ」

「「えっ?」」

「今現在守り人と術師からなる連合軍を編成し、王都防衛に加わる為、進軍中です。そこに義勇兵も加わり1000人を超す大所帯になっております」

「妖魔との戦闘に長けた守り人だけでなく、貴重な術師も!?

 それはマジで心強い!」

「皆貴方の演説に心励まされたのです。

 儂らは弱くか細い存在。

 でも恐怖を堪え勇気を振り絞えば戦う事ができる、と。

 それを気付かせてくれたのはアルティア殿のお蔭なのですからな」

「うん。私も同意する。

 私が宿命と向き合って今の自分を好きになれたのは本当にアルのお蔭だよ」

「吾も同じだな。

 客人の言葉がなければ自暴自棄になり無駄に命を捨てていたところだった」

「な、何なんだみんな!?

 謎の俺アゲはやめろ!

 し、死亡フラグになるだろうが!?」

「フフ……皆にモテモテですわね。

 流石と言うべきでしょうか。

 サクヤ様が言っていた、それが貴方の魅力なのですね」

「いや、それはマジでないです、はい」

「ああ、でも残念。

 名残惜しいですが巫山戯るのはこのへんにしませんと」

「「「???」」」

「次の方がいらっしゃいましたわ。

 あの方に、冗談は通じません」


 瞳を鋭くした岐神の視線の先、

 皆の注目が集まるその唯一の出入り口で、

 次なる来客を告げる銅鑼と歩哨の声が部屋に響いた。



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