160章 現状に憂いる姫君
「しかし先程の話し合いには参りましたわ。
今こそ皆の意見を一つにしなくてはならないのに。
ああもバラバラでは……諸国会議に向けて意志の統一が為されません」
楓が煎れてくれた香茶を優雅な仕草で傾けるコノハ姫。
テーブルに腰掛け恭介と共に寄り添う姿はまるで一流の絵画の様だ。
ただその表情は優れない。
悩ましげに眉を顰め悔しそうに唇を噛む。
隣りに座る恭介も物憂げな表情で同意する。
俺達もカップを傾ける手を止め、今朝の様子を思い返す。
主戦論に降伏論。
戦法や連携を図るのではなくまず戦うか否かの意見。
てんでバラバラな重鎮達の声。
あれが主要国に連なる者達の発言とは思えない。
気になったのは権力を誇示する発言。
将軍達のような軍部所属者に顕著に見られた傾向である。
まあ国の要たる国防機関とはいえ、普段の軍部とは金食い虫である。
戦力を維持するには莫大な経費を消耗する為、国民に厭われる。
そんな彼らが胸を張って存在意義を問えるのが今回のような事態だ。
意気込むその姿勢も理解出来なくはないのだが。
だが真に懸念すべきはそこではない。
一番危険なのは大臣達内政関係者の発言だ。
権力を固持する為には国のリソースすらも差し出そうかというその主張。
売国奴とも取られ兼ねない危険思想だ。
コノハ姫もそれを分かっている。
が、そんな重鎮達を押さえる事が出来ない自分の力不足をも理解してる。
名代とはいえまだ若い彼女を侮る者も多いのだろう。
国民の支持は絶大とはいえ……宮中に渦巻く権力闘争はまた違うバランスで形成されている。
そこにあるのは騙し謀り貶めるという人の負の想念。
清廉そうな少女には不似合いな戦場だ。
しかし、
「だからといって引く気はありませんが」
不敵に微笑み宣言するコノハ姫。
楓と恭介も安堵したように頷く。
折れない心。
それこそがコノハ姫の真の強さなのだろう。
「流石ですね、その心意気……
アルが陽光のようなあたたかさなら、姫は月光のような清々しさ。
皆が貴女を支持する理由が分かりますよ」
「恭介がそう言ってくれるならそれはきっと気休め以上のものですわ」
「拙者が言ったのではそうはいかないでしょうな」
「なっ! そ、そんなことは……」
楓のからかいに頬を染めるコノハ姫。
純なその反応に俺もミーヌも口を緩めてしまう。
鬱屈した雰囲気が一掃され、なごやかな一時が流れ始めた時、
「さて……場も落ち着いた事だし、ちょっといいかな?」
眼を伏せたコノハ姫がサクヤの声で語り始めた。