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159章 戦々に恐々な勇者

「それで……

 これはいったいどのような素敵な勘違いをしてくれたんです?」


 共に正座し萎縮し反省する俺とミーヌ。

 俺達の前に仁王立ちし、腕を組みながら恭介は言った。

 言葉の端々に怒りのオーラが滲み出ている。

 クールな恭介の怒気。

 普段優しい者ほどそのリバウンドは激しく感じる。

 俺達は戦々恐々といった風情で弁解を開始するのだった。


「いや、その……不穏な会話が聞こえたもので……」

「会話?」

「あ、盗み聞きをしてた訳じゃないよ?

 ただ……そのね、聞こえてきた内容が……」

「内容が?」

「何と言うか……性的な……」

「ほう?」

「あげく年端もいかない幼女に、と……」

「ほほう?」

「つまり恭介が人の道を踏み外してしまったのではないかと思いまして……

 悪気はないのですが、つい勇み足を踏んでしまったのです」

「ええ(にっこり)素敵過ぎですね。

 少しばかり……矯正してあげたくなりましたよ。楓ばりに」


 あくまでにこやかに告げる恭介。

 時に笑顔は何よりも勝る恐怖となる。


「「ごめん(なさい)!!」」


 言い難き戦慄と危機を感じた俺達は声をハモらせ頭を下げ謝罪する。

 声のシンクロもさることながら、無駄に角度まで同調したその滑稽な姿。

 怒り心頭といった感じの恭介だったが、呆れた様に苦笑する。


「もうその辺にしてあげたらよろしいのではないですか?」

「拙者もそう思うぞ、恭介」

「そうですね。

 疑われたのは心外ですが、自分にも落ち度があったのは認めましょう。

 顔を上げてください、二人とも」


 コノハ姫と楓の声に同意する恭介。

 俺達へ促す言葉にいつものあたたかみを感じた。

 恭介の顔色を窺いながらビクビクと顔を上げる俺達。

 そんな俺達の様子に恭介は苦笑を深めながら、


「まあ確かに誤解されやすいでしょうからね。

 説明してもいいですか?」

「うん」

「ああ、是非とも聞きたい」

「まずですね、コノハ姫ですが……

 彼女は純粋な人間ではありません」

「え!?」

「マジで!?」

「そこからはわたくしが」

「では頼みます」

「本当なのですか、コノハ姫?」

「ええ、恭介の言う事は真実ですわ。

 わたくし……というより、ゼンダインの王族は

 神祖たる吸血神魅柚様の血統に連なる者です。

 先祖に魅柚様の寵愛を賜わった方がいて、その恩寵を受けてます。

 ……どちらかといえばわたくしは真性というよりハーフ以下のクォーターレベルですが。

 魅了や怪力や霧化などの能力はありませんし。

 まあ反面日光や聖別によるダメージもありませんが。

 それに付け加えれば、この身に秘めた莫大な魔力量。

 傷付きにくく回復しやすい肉体。

 そして老化の遅い身体も加護の一つといえば一つです」

「老化の遅い?」

「ええ。わたくしですが、ずばり幾つに見えます?」

「え? 不敬を承知で言えば……

 10に満たないかとばかり……」

「でしょうね(はあっ)。

 見た目からは想像もできないでしょうが、

 わたくし……こう見えても200才です」

「ええええええええええ!!!!」

「うっそおおおおおおおお!!!」

「まあ冗談ですが」


 テヘペロ、とばかりにウインクするコノハ。

 意外に茶目っ気があるお姫様である。


「でも200は流石に嘘ですが今年で20になります。

 とっくに成人の儀は終えてますわ」

「そうだったのか……

 大体常人の半分以下の老化ということか」

「そうですわね」

「でもそれなら良いことづくめじゃないか。

 何でこんなコソコソ人目を憚る様に……」

「いいえ、アル様。

 何事にもメリットだけではすみません」

「というと?」

「わたくしのこの身体にも、無論デメリットもあります」

「聞いていいのかどうか無理強いはしません。

 ですが失礼を承知で尋ねれば……それは?」

「吸血衝動です」

「吸血衝動?」

「ええ。派手に力を使った後や感情的に不安になると血が欲しくなります。

 眷属を増やす力などはありませんが……どうしても欲しくなってしまうんです。

 特に強い遺伝子を持つ人のほど」


 唇からはしたない舌をチラリと覗かせるコノハ。

 少し背筋にゾクッとキタ。

 ミーヌも軽度の警戒をしている。

 案外蛇に睨まれた蛙というのはこんな感じなのかもしれない。


「ここ最近は衝動が満たされなくてイライラしてましたが……

 恭介のお蔭で完全にわたくしは充実してます。

 最高のQOL~クオリティオブライフ(生活の質の上昇)ですわね」

「な、なるほど」

「その分自分が毎日やつれていきますが」

「大丈夫ですわ。恭介なら若いから」

「理由になっていませんよ」


 肩を竦める恭介に腕を抱え絡みつくコノハ姫。

 その姿に先程朝食会で見せた毅然とした佇まい窺えない。

 そこには年齢相応の少女に戻った姿……

 無防備であるも自然体な笑顔があるのみだった。


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