155章 散歩に赴きし勇者
「おや、アルティア殿。
どちらにお出かけですか?」
「ああ、ミーヌと一緒に朝の散歩に」
「ほほう。そいつはまた(ニヤリ)。
しっかりとエスコートしてやってくださいよ」
「うるさいな。もう行くぞ!」
「はいはい。では行ってらっしゃい」
王城の門扉のところで警護の歩哨に立ってた騎士と兵士に話し掛けられた。
昨夜飲み明かした仲であるそいつらは何故かにやけた笑顔で詰め寄ってくる。
俺がミーヌの手を引いてるのを見て事情を察したらしい。
まったく余計な事に気が利きすぎる奴等だ。
俺はミーヌのを手を強く引くと、王都の街並みへと歩を速めた。
ミーヌはこういったからかいに耐性が無いのか、顔を赤らめ俯きながら応じるのみだったが。
昨日の崩壊が嘘の様に王都は活気づいていた。
早朝だというのに多くの人々でごった返し、市場では威勢のいい呼び込みの声が飛び交う。
道行く人々の顔は活き活きとした活力に満ちていた。
大変な事態を乗り越えたという自負がそうさせるのか。
マイナスに抗う人間の強さを垣間見た気がした。
それは無論前向きな生き方をしてるからだけではく、
「そりゃ勿論、キョウスケ様のお蔭さ」
立ち寄った果物ジュース専門店。
ジュースを注文にしながら俺は思わず尋ねてみる。
俺の問いはどうしてみんなあんなに晴れ晴れとしてるんだ、というもの。
豪快に素手で果実を搾り取りながら女店主は応じた。
「キョウスケ?」
「ああ、颯爽と現れた神名担の勇者カムナキョウスケ。
並居る危機を次々と解決するだけでなく、あたしらのような下々にも気軽に話しかけてくれる。
あの人や勇者の方々が守ってくれるから皆笑えるのさ」
「なるほどね」
「ホントあたしらは頭が上がらないよ。
何でも王女の信頼も厚く、二人は恋仲なんだとか!
キョウスケ様が王位を継いでくれるならあたしらも大歓迎だよ」
……何だか話がゴシップっぽくなってきた。
「他に何か耳寄りなお話はありますか?」
「耳寄りな話?
ああ、そうそう!
昨日のキョウスケ様達の留守を狙った大襲撃だけどね!
何でも新しい神名担の勇者様達が駆けつけてくれて大活躍されたそうだよ。
一人は剣士で流麗な装飾の聖剣を持ち、
もう一人はこの国では珍しい、あざやかな金髪の美しい術師で……」
何かに気付いた女店主。
俺達をジロジロと見詰めてくる。
女店主の指摘通りの服装に思わず身を竦める。
「ああ!! もしかしてアンタ達!」
「しー! どうか御内密に!!」
慌てて口を封じ(手で、ですよ? 殺してないよ?)懇願する。
昨夜の宴の例を見るまでもなく、もし周囲に正体がバレたら色々面倒な事になりそうだ。
女店主も得心がいったのか騒ぎ立てるのを止め、どこか納得顔で頷く。
「やだよ、もう。
それならそうと言ってくれればサービスしたのに!」
「いや、別にそういう訳では……な、ミーヌ」
「うん。ホントにただの散歩の最中でしたから」
「そうなのかい?
ならいいけどさ……
はい、コレ。出来たよ」
コップにはフレッシュ果実のジュースが並々と注がれてる。
でも一番目を引くのはその呑み口。
そのふちは様々な果実で彩られていた。
「あれ、これは……」
「ささやかだけどあたしからの気持ちだよ。
アンタ達が目立つのを厭うみたいだからせめてこれぐらいわね」
「何だか逆に申し訳ございません……」
「気にしないでいいんだよ!
アンタ達は褒められて当然の事をしたんだ。
王都の皆に変わって礼を言いたいのはむしろこっちの方だよ」
「そうですか?」
「ああ。これからも王都を……
いや、カムナガラをよろしく頼むよ」
「ええ」
「はい」
「いい返事だ。
あたしらも一生懸命皆の生活を支えるからさ」
「頼もしいです」
「同感」
「フフ……あたしももう少し若かったらね~。
ウチの宿六を放って義勇軍に参加するんだけどさ」
俺は女店主を見る。
ゴリラのように発達した大胸筋。
ミーヌの腰回りほどもある腕回り。
理想の前衛職の身体がそこにはあった。
が、俺もミーヌも鬼じゃない。
さらにいえば全力で地雷を踏むのは避けたい。
ので当たり障りのない応対を行う。
「そ、それはほら……
技能が無いと危険ですから(肉体的にはともかく)!」
「そ、そうですよ!
御主人も心配でしょうし」
「そうそう」
「そういうもんかね」
「それに……」
「ん? なんだい?」
「戦うのは私達の仕事です。
皆に代わって戦場で意志を代弁するのが、私達戦う者の意義なのですから」
「カッコつけて言うならさ。
皆が日々の暮らしの幸せを生産してるのに対し、
俺達戦う者は、皆の安全を生産してるのさ」
「なるほどね……流石は勇者様、って感じだね」
「そんなことないさ。
所詮戦闘職何て有事以外はごく潰しだしな」
「ですね。アルも戦う以外は鬼畜で意地悪な人ですし」
「おい、ミーヌ~」
「ホントのことだもん(ぷい)」
「そんな~」
わざと拗ねたミーヌに俺の情けない追従の声が重なる。
大声で笑い声をあげる女店主。
「何だい、アンタ!
もう尻に敷かれてるのかい?」
「まあ……否定はしない」
「あはははは!
上手い事やりなよ!!」
「ああ、そうするよ(苦笑)。
さて……そろそろ王城に戻らないとな。
ジュースありがとう。失礼する」
「うん。御馳走様です」
「いいんだよ! じゃあ気をつけてね!!」
「ああ、じゃあまた!」
二人して女店主に手を振りながら、
俺達は新鮮な搾りたてジュースを堪能しながら王城へと戻るのだった。