154章 戯言に興じる勇者
まだ早朝といってもいい時間の為か、昨夜の騒ぎが嘘のように王都は静かだ。
差し込み始めた日差しに惹かれ、窓を開ける。
大陸でも有数の都市の、荘厳で美しい街並みが朝の日差しを受け輝いていた。
端々に昨日の戦いの爪痕は見られるものの、ほぼ完全に復元された建物。
俺達が宴や休養に当った間も術師達は懸命に街並みを修繕し続けたのだろう。
その労力と意志力には頭が下がる。
根無し草の俺とは違い、ここに住む人々にとってはここは間違いなく故郷なのだから。
帰る家、ホームがあるということは幸せに繋がる。
良い事だ。
気持ちの良い陽光を全身で浴びつつそんな事を考えてると、
「お待たせ、アル」
と身支度を終えたミーヌが出て来た。
昨夜の様なドレスではなく黒衣のローブを羽織った魔術師然とした装い。
髪は結い上げ、首元は何故かマフラーで覆われてる。
うっすらと施されたメイクがその端正な容貌を更に際立たせていた。
ドレスアップしたミーヌも相当綺麗だと思った。
けど、やはりこの姿が一番美しさというかミーヌらしさを感じる。
ミーヌの本質と云うか、飾らない中身(人間性)がよく出てる気がするからだ。
……決して魔術師フェチではない。念の為。
「いや、全然待ってないぞ」
「そう? 良かった。
でもぼーっとしてたから何してるのかな~って」
「ああ、王都を見てた。
素晴らしい街並みだな、ここは」
「うん。術師達が頑張ったみたいだね。
昨夜の凄惨な趣きは窺えないくらい」
「だな。でも正直言えば」
「?」
「ミーヌに見蕩れてた、っていうのもあるぞ。
変わらず綺麗だ」
「……ばか。
そんなこと言われたら恥ずかしいでしょ」
「俺は自分に真っ直ぐな男だからな。
ミーヌには包み隠さず本音でぶつかりたい。
迷惑でなければ、の話だが」
「……迷惑な訳ない。
ホントはすごく嬉しい」
「そうなのか?」
「もうっ。何度も言わせないで!」
「ハハ、悪い悪い。
ところでさ」
「ん?」
「まだ朝食まで時間あるだろ?
良かったら王都を散策してみないか?
やっぱ直接見て歩いてみたくてさ」
「あ、賛成♪」
「じゃあ行こうか」
「うん!」
自然に伸びた手に、ミーヌの手が重なる。
顔を見合わせ互いの絆を確認した俺達は早朝の王都へと歩み出すのだった。
ちなみに、
「なあ、ミーヌ」
「なーに?」
「何でマフラーしてるんだ?
昨日まではそんなのしてないだろ?」
「アルの鈍感」
「え?」
「誰のせいだと思ってるの?」
「は? ……ああ!!
もしかして……痕残ってるの?」
「そういうこと」
「す、すまないミーヌ!」
「う~ん……許さない」
「えー」
「チューしてくれるまでは」
「なんだ、そんなこと。
お安い御用っていうかこちらからお願いしたいくらいだ」
「もう~は・や・く!」
「はいはい……
お許しください、我がお姫様」
「ん。苦しゅうない」
なんていう朝の一コマがあったが。
これは正直余談だろう。