153章 弁明に暗澹な勇者
心地良い疲労を感じつつも身支度を整えに湯船を出る。
少し惚けた顔のミーヌは桜色に染まった肌を湯船に浮かべている。
声を掛けると、もう少し温まってから上がるとの事。
適当に髪と身体と洗えばいい俺と違い女性は身体の手入れに時間が掛かる。
まして今日は周辺各国との会議……会談があるのだ。
ミーヌも神名担の勇者の一人として参加する以上、気合を入れていくのだろう。
俺個人としては素のミーヌでも充分綺麗だと思うが、それはそれ。
やはり女性として譲れない部分があるらしい。
幸いなことにアホ毛のお蔭で早起きしたせいか、まだ時間はある。
俺はミーヌに口付けを一つすると浴室を出た。
しかし会議か。
サクヤから自分に課せられたミッションを思い出す。
随分気楽に任せられてくれたものだ。
暗澹たる先行きに今から憂鬱になる。
問題は会議に出れるかどうかだった。
琺輪世界ではともかくここカムナガラでは俺はそこらの勇者1くらいの存在。
正直各国の重鎮が肩を並べる会議に参加できるほどの資格があるとは思えない。
けどサクヤの話だと末席とはいえ参加できるとのこと。
十把一絡げとして扱われるのではなく発言権があるのが嬉しい。
今更だがナトゥリを救った功績が評価されたようだ。
それに岐神や颯天の強い薦めがあったらしい。
つい先日だというのに二人の顔が懐かしく思える。
色々考えつつタオルで身体を拭った瞬間気付く。
風呂上り。
いつのまにか手入れと修繕が為され、クリーニングすらされた装備一式が脱衣室に用意されていた。
驚いた。
っていうか若干引いた。
だがそこで以前カイルから聞いた内容を思い出す。
真のメイドは主人や客人に尽くす姿すら負担になるからと影に動くという。
きっと昨日の侍女さんもそんな境地に至った人なのだろう。
……マスターメイドっていうかメイド道というものがあればの話だが。
(一番の懸念は『声』を聞かれたかどうか何だが……
やっぱ聞かれたよな。
はあっ……ちと気まずい)
戯事を考えつつも服と装備を纏う。
真銀の鎖帷子の損傷やインバネスのほつれも完全に直されてる。
土妖精並みのスキルを持った人間がいるらしい。
改めて王都の人脈というかスキルの高さを思い知る。
けどその感動は聖剣を持った瞬間にぶっ飛んだ。
「あっ……ヴァリレウス回収するの忘れてた……」
どうやら託宣の間で具象化した後、戻らなかったらしい。
まあ気付かない俺も俺だが。
宝珠にいつもの輝きがない。
このままでは精々切れ味のいい魔力剣(+5)である。
俺は面倒な事態に頭を抱えた。
拗ねてなきゃいいけど。
ヴァリレウスは余裕ぶった頼りがいのあるおねーさんキャラの割に打たれ弱い。
昨夜のモア出番などの訴えもそうだが、基本構ってちゃんなのだろう。
さてどうしたものかと無数の言い訳を考え始める自分。
陰々滅々。
物憂げ(アンニュイ)。
今日の一言「頭痛が痛い」……はあ(溜息)。
あけましておめでとうございます☆
本年度もどうぞ宜しくお願い致します^^