149章 概要に怪訝な勇者
「まあ……俺が有史最高の云々は置いておいて、だ」
「あ、逃げた」
「るっさい。
で……実際どういうことなんだ?」
「ん~……アルおにーちゃんにも分かりやすく言うとね」
「ああ」
「ヘルエヌ率いる銃火器で武装した妖魔の軍勢、<終末の軍団>は確かに脅威でしょう?
あたしが通常の力を振るえれば問題なく一蹴できるけど……
正直世界改変の余波からまだ全然立ち直れてないのが現状」
「そうなのか?」
「うん。仮にもこの世界の主神だし、万全なら電脳世界限定だけど万能を誇るよ。
でも今のあたしは……GM権限と残された力を活用して世界設定にアクセスするのが精一杯。
情報改竄やリソース書き換えによる援護は出来ても、メインで交戦するのは出来ないっていうのがホントのとこかな」
「なるほど。神でも難しいことはあるんだな」
「そんなに融通が利く存在じゃないんだよ、神って。
力の行使にも制約と誓約があるし。
ね、おねーちゃん?」
「そうじゃな。
……人の身からすれば妾達は強大で自由に思えるかもしれぬ。
だが世界に縛られるのは人も神も変わらぬ。
逃れなれぬ因果という枠組みの中に存在しておるしのう。
むしろいつでも役割を投げ出すことが出来る人族こそが真に解放された存在なのかもしれぬな」
「ふ~ん……結構大変なもんだな、神々も」
「正常なる世界法則の監視。
不均衡存在の是正。
外敵侵略意志の抹消。
妾達の様な下っ端亜神はともかく、旧神たるサクヤ殿の役目はまことに大変なのだよ。
常々の御苦労、痛み入ります、サクヤ殿」
「う~ん……まあ、ね。
あたしも好きでやってるし」
「そう言い切れるのがサクヤ殿の強さでじゃな」
「それほどでも……あるかな?」
ヴァリレウスの賛辞に破顔するサクヤ。
いつもの気取ったお澄まし顔が見事に崩れている。
意外とおだてに弱いのかもしれない。
「さて戯言はともかくカムナガラの話だけど」
「ああ」
「ゼンダインの王国軍を総動員しても<終末の軍団>には到底及ばない。
一方的な虐殺、ワンサイドゲームと云っていいほどの結果になる」
「だろうな」
「近代装備に身を包んだ妖魔は一匹で一小隊に匹敵するしね。
それに何よりヘルエヌは外なる神々に訴えかけてるのも厄介なの。
まして日々力を増大させるヘルエヌは順当に各地で信派を増やしてるし。
冗談抜きでかつてのあたしに匹敵しようかというくらい。
後手に回れば回るほど対処はし辛くなる」
「それは理解できた。
じゃあ何で俺が口説けば大丈夫になるんだ?」
「それですよ、アル」
「何だ恭介」
「今現在カムナガラの最大戦力は<終末の軍団>だと貴方は思ってますね」
「違うのか?」
「半分正解で半分誤りです」
「え?」
「未だ参戦の意欲はないものの、竜神族の方々が参戦すれば戦況は一変します」
「それほどのものなのか?」
「ええ。百に満たない部族ですが、皆様一騎当千はおろか一騎一軍たる力の持ち主です」
「! 凄いじゃないか!?
何で参戦してくれないんだ?」
「彼らは自らが認めた存在にしか力を貸与しないのですよ。
更に今現在竜神族を取り仕切ってのは歴代最高の力を持つ竜桔公主。
干将・莫耶という竜神族に伝わる退魔の宝剣を扱う武芸に秀でたお方です」
「なるほど……概要は分かった。
つまりその竜桔公主に俺が実力を示せばいいのんだな?」
「いえ……確かにそういう関わり方も喜ばれるでしょうが」
「ねえ?」
「うん?」
「え~竜桔公主様は娘を溺愛してまして」
「ああ」
「特に公女である涼鈴様に対してはデレデレなのですが」
「ふむふむ」
「涼鈴様は何というか特殊(腐った)な趣味(男性同士の純愛)をお持ちで……
カップリングがどうとかこうとかで二次元の妄想に捕らわれてます」
「そ、それはまた壮絶だな……」
「ええ、何でも腐女子フィルターで変換されます。
交渉に赴いた自分も歪んだ妄想で穢されました……あれは、屈辱です。
いいえ、男としての沽券に係わります」
「お、お疲れ様でした」
「いいえ。これも仕事でしたから。
まあこのようなことからも推察されるように、彼女は重要なポジションにありながら独り身。
つまりは行き遅れなのです」
「あ? ってことは?」
「ええ、アル。
貴方の使命は涼鈴様を説得し、可能ならば竜神族の参戦を彼女に促していただく事なのです。
正確に言えば口説き落として現実問題に直面させてあげてください」
珍しく辟易したような恭介の苦い顔。
俺は改めてサクヤの無理難題のレベルの高さを知った。